レイエスさん
輝夜達が帰って行って人が一時的に少なくなる。ここはちょっと奥まったところにあるのでお客さんの入りにムラが出来るのだ。ちなみにマスターは趣味でやってる店だから人はあまり来なくていいのだとか。
――カラン、カラン
と誰かが入って来た音がしたので責任案内しようと向かうと、
「げ」
「第一声が「げ」って失礼じゃないかしら?」
「その通りっす」
そのまま、俺は何を話せばいいかわからず取り敢えず無言で席に案内しメニューを渡す。
「カフェオレ一つ」
「かしこまりました」
俺は注文されたコーヒーをドギマギしながら運ぶ。もちろん恋愛的なドギマギじゃない。多分人生で一番緊張したのは?と聞かれたら今だ!と答える自信があるくらいだ。
「ご、ご注文のカフェオレです」
「ありがと。……そんなに緊張しなくていいわよ」
「えっと、なんのことでしょうか?」
以前輝夜と久志がやったことを考えるとこの場で緊張するなという方が無理なことだと思う。
しかもそれが俺が発端になってるんだから尚更だ。
「冷静になればあの場で別に貴方は何もしてないことくらいわかるわよ。だから私が嫌いなのはあの天然と腹黒よ」
「おお……意外と常識的な」
「常識的じゃないと私は生きてないわよ。偉そうで、気が強いってだけでも結構なのに常識までわかってなかったら真っ先に社会から排斥されるもの」
俺はそれを聞いて一応自覚があったんだな、と妙な関心をする。
そしてこの発言を聞くとどうしても一つ気になることが出来た。それは
「じゃあ何であの時笑ったんだ?」
「……?なんの事?」
「初めて目があった時のだよ」
「……ああ、あれのこと?だってあの時の貴方寝癖で髪がアンテナみたいになってたのよ?」
え?そんなことになってたの?と俺は驚愕する。確かによおく思い出してみるとレイエスさんは俺の顔を二度見していた気がする……これは、こっちが確実に悪い。
「勘違いして悪かった。あの二人にも今度言っておくわ」
「いいわよ別に。私あの二人の事嫌いだし」
サッパリしててちょっとかっこいいなぁ、なんて思っていると今度はレイエスさんが「今度は私が質問してもいい?」と話しかけて来た。
「ねぇ、貴方は幽霊とかゾンビとかそういうの信じる?」
「ぶほっ!?」
(タ、タイムリーすぎるだろ)
いきなり身に覚えがありすぎる話題が飛んできて、何も飲んでないのに思いっきりむせた。
「あー、普通に考えたらいないんじゃないか?」
「そうね。そうよね……あ、私最近エクシストの漫画を読んだの」
「へ、へぇー」
あまりにわかりやすい作り話を使ったいきなりの話題転換。こいつエクシストだな?
「そこでさ、ちょっと周りより優秀な主人公は命を賭けて戦ってるのに相手は一般人には見えない幽霊。そのせいで主人公の活躍は誰にも認められない。それどころか、クラスではくだらない理由でハブられたりするの。……もし、貴方がこの主人公だったらどうする?」
(うん。これ絶対レイエスさんの話だわ。ユリアの存在からエクシストとか、陰陽師とかは実在するんだろうなぁとは思ってたけど、まさかこんなに近くにいるとは……それにしても、レイエスさん前の学校でハブられてたのか)
と、まぁ一瞬のうちに脳内でレイエスさんの意外な一面に対する感想が浮かび上がったが、一旦それは置いておいて質問の答えを考える。
多分、この場合はレイエスさんに「それでも人が助かるのならやるべきだ」という、安直でそして何よりも正しい答えを言うべきじゃないんだろう。なんとなくだけどそう思う。
多分彼女は自分を守ってくれる言葉を、肯定してくれる言葉を心の底、無意識の領域で望んでるんだと思う。まぁ、それを付き合いの浅い俺に期待してくるべきじゃないと思うんだけど。こういうのは本来家族の役目だ。
「俺はそんな状態になったことがないから的外れな答えになっちゃうかもだけど……そうだな。俺はやめていいと思うけどな。その主人公」
「でも、そうしたら人が犠牲になるのよ?」
「別にいいんじゃね?だって人を助けるのが辛い状態で続けたって結局は長続きしない。いつか主人公の心が壊れて結局周りの人は犠牲になる」
「で、でも……」
「そもそも、エクシストってさ主人公一人じゃないんだろ?別に主人公ってちょっと優秀なだけで、一騎当千の英雄じゃないんだろ?じゃあ多少は他の人に任せていいじゃん。それで、主人公は自分が守りたいものだけを守ればいい。あとは、その守りたい物のついでに周りも救っちゃえばいい。そうすれば主人公は辛くないし、人を犠牲にしないでもいい」
「それは……そうかもしれないけど」
「そうそう。人って意外と自分がいないと……!って思うけど悲しい事に意外といなくても、なんとかなっちゃうのが世の中なんだよ。実際俺も経験あるしね」
あの時の俺は若かった。自分が、自分がってなって結局無理が祟って潰れたからな。輝夜達がいなかったら大変なことになってた。
「だから、その主人公はとりあえず親でも、兄弟でも先輩でもいいからとにかく誰かに頼るといいんだよ。一人で抱え込むから追い詰められるんだ……と、まぁずいぶんクサイこと行った気がするけど、これが俺の考えかな」
「……すっごく参考になったわ。感謝してあげる」
いつも通りの偉そうな口調に戻ったレイエスさんは「これ、お釣りはいらないから」と千円札をおいて出て行ってしまった。最後に「今度から下の名前で呼んでいいわよ。大樹」と言い残して。……それにしても、釣りはいらないってかっこいいな。俺もやってみたい。
「マスター。釣りはいらないぜ✨」
「まだ何ももらっていませんが」
「#@¥#@ッ〜〜〜!!?!!!?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ちょっとこの展開は無理があったような……でも、さっさとシリアス終わらせたかったし……違和感感じたらごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます