喧嘩

 そして事件は放課後に起きた。


「なんで私があんたに指図されなきゃいけないわけ?」

「私は大樹と一緒に帰ろうとしただけだよ?」

「だ、か、ら、私の話を遮って、尚且つ他の人に案内してもらえって言ってきたでしょ!」

「お話を遮ったのはごめんなさい。だけど別に案内するのは大樹じゃなくてもいいでしょ?」

「私いい病院知ってるんだけど紹介しようかしら?」


 俺の目の前にはキョトンとした輝夜と全身で怒っているレイエスさんがいた。


 なんでこんなことになったのか……それは十分前に遡る


『えー始業式も終わったので今日はこれで解散だ。あと森山、できるなら校舎を案内してやってくれ』


 そう言って先生は教室から出ていき、次の瞬間俺に視線が突き刺さった。主に男子の。


『あー、えっと、どうしようか』

『私はあな『太樹こんなの放っておいて帰ろう?』……邪魔しないでくれる?今私が喋ってたんだけど』

『あ、ごめんなさい。全然気づかなかった』


 そんな事あるわけないじゃん。というかなんで輝夜はそんなばちばちなの?普段は喧嘩になる前に自分が引き下がる事の多い輝夜がここまで突っかかるのは………ははぁん。あれだな?宗教戦争ってやつだ。レイエスさんは胸の十字架からキリスト教だっていうことがわかる。つまりこれは神道vsキリスト教ってわけだ。(違う)


 まぁこんな事があって今に至るんだけど……どうしようか。


「輝夜、輝夜。ほら取り敢えず謝って帰ろう?最初に突っかかったのはこっちだし」

「なんで?この人大樹のこと笑った人だよ?仲良くする必要あるの?」


 やだ、私のためだったなんて輝夜様素敵!……はっ!?今一瞬性別が乙女になっていた気がする。

 それにしても、いつもの天然じゃなかったのね。たまに輝夜は空気を読まないで相手を怒らせたりするから、今回もそうなのかと思ってたんだけど。


「へぇー。あんたソレの彼女?」

「幼馴染だけど?」

「ふぅーん?ただの幼馴染のためにここまでするかしら?」


 確かに一般的なな幼馴染はここまでしないかもしれない。(普通しない)だが、俺の幼馴染達は恐ろしく優しいのだ。


「まぁまぁ、お二人さんとも落ち着いて。輝夜はちょっと天然なところがあるんだよ。だから今回は多めに見てあげてくれない?ね、レイエスさん」


 そう言って久志はこちらに片目をつぶって合図を出してくる。これは輝夜のことは任せたってことだな。


「輝夜、俺は気にしてないから帰ろう?ほら、前に行きたいって言ってたところ行くからさ」


 そう言うと輝夜は目だけを輝かせた。……相変わらず表情筋がうごかないな。


「わかった。バック取ってくる」

「おう。俺も準備しとくわ」


 これでひとまず輝夜の方は安心だ。それでレイエスさんの方は


「わかったわよ。今回のことは忘れるわ」

「ありがとう!レイエスさん!」

「それで案内はあなたがしてくれるのかしら?」


 あ、これまずいかも。久志は基本いつもおちゃらけてるけど自分の好き嫌いははっきりしてるから。


「あ、ごめん!俺今日予定あるんだわ!」

「ふーん。使えないわね」

「予定が空いててもお前の相手とかしたくねえんだわ」


 最後に一言周りに聞こえないように、久志がレイエスさんにボソっと言い放った。突然のことに呆然としている彼女を尻目に久志は俺に「早く行くぞ」と言って先に教室を出て行った。


「大樹行こう?」

「あ、うん。行こうか」


 そして俺も輝夜に連れられてて教室を出て、数歩歩いたところで教室から「なんなの!?あの3人組は!!」という声が聞こえてきた。……俺は特になんもしてないはずなんだけどなぁ……。


 △▼△▼△


「それじゃあまた明日」


 茜色に染まった分かれ道で俺たちは別れの挨拶をしていた。


「ねぇ、大樹の家行っちゃダメなの?」

「うん。家結構汚いから、輝夜を呼ぶなら掃除をしてからって思ってるんだ」

「うそ。大樹のお母さんから驚くほど部屋が綺麗だったって聞いてる」


 なんで知ってるの!?どうゆうネットワークが構築されてんのさ!?俺のプライベートはダダ漏れですか!?


「おいおい輝夜。そこは察してやれ「肩の手」……すんません」


 俺をフォローしようとした久志だけど輝夜の肩に手を乗せたのが不味かったらしく、極寒の視線に貫かれ逢えなく敗北した。負けないでくれ!ネバーギブアップだ!そう俺が心の中でエールを送ると、久志が蘇った!


「ほら、男には女子に見られたくないものがあるんだよ。例えば、大樹は【久しぶりに再開した清楚な幼馴染のお姉さ「やめろぉお!」」


 俺の性癖をバラさないでぇええ!?ただでさえ恥ずいのに、相手が幼馴染とかもっと恥ずいから。明日から気まずくなっちゃうからぁ!


「……うん。大樹も男の子だもんね。わたし今日は帰るね?」


 そう言って顔を真っ赤に染めた輝夜は走って行った。


「……久志テメェ」

「別にいいじゃん。むしろ男ならそのぐらい普通だし」


 助けてくれた事には感謝するけれど、これじゃあ素直に感謝できない。


「それに見てるこっちの身としてはそろそろ進展してほしいんだよなー」

「ん?なんか言ったか?」

「いーや?ただ美咲ちゃんに会いに行こうかなーってな」

「ちっ!彼女持ちの惚気なんぞいらんわ」


 その後もくだらない話をしながら歩いて行き、


「んじゃ、アパートここだから。じゃぁな」


 と彼女の家に向かう久志とアパートの前で別れ俺は家に入った。






「なんか憑いてる……か?………気のせいだな」

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