第5話「情報屋お嬢様」

「最近入ってきた情報なんだが…」


 僕とエマはごくりと生唾を飲む。


「新魔王が誕生したみたいなんだ。」


 おじさんの言葉に、僕は衝撃を受ける。


「魔王は一度倒され、街に平和が戻ったのは学校で習っただろう。しかし、最近力を持った者が魔王になり、再び絶望を与えようとしている。」


 僕は考え込む。もちろん魔王が倒されたのは学校で習ったし、本の中でも大好きな物語だった。アーサー・エトワール含む四人の英雄が魔王を倒し、街に平和が取り戻った。今はアーサー・エトワールが注目されているが、それ以外も3人も普通にすごいのだ。驚異の肉体を持った戦士、高度の回復と防御魔法を持った魔法使い、超高性能の天才頭脳を持った名もなき旅人。この三人とエトワールが協力しあって魔王を倒す。最高の物語だ。それで終わり…でよかったはずだった。


「話していただきありがとうございます。他に情報はあったりしますか?」


 僕は少し早口で質問する。


「俺が持ってる情報はそれだけだ。他に知ってる人といえば…ちょっと厄介だが一人いるぞ。」


 おじさんの言葉に食いつくように「誰ですか?」と聞く。


「ルミールっていう人なんだけど、いわゆるお嬢様って感じの人でね。俺たち一般人が聞いて言ってくれるかどうか…」


 おじさんは難しい顔をしてそう言う。


「わかりました。ありがとうございます。今はお金持ってないんですけど、お礼として今度個々の武器や装備買いますよ。」


「おぉ!待ってるぞ少年!さぁ行ってこい!」


 おじさんは強めに肩を叩いてそう言い、軽く前に押した。


 外に出ると夕暮れの空が広がっていた。


「ってかアル。」

「なに?」

「結局あれ何の話してたの…?」


 何を言うかと思えば、話を聞いてないのか、それとも単純に理解力がないのか。


「要するに新しい魔王が出てヤバいってだけ。」


「おぉめっちゃ簡単じゃん!アル天才!」

「いや別に話聞いてればわかるだろ。」

「…てへっ?」

「てへじゃねぇよ。」


 相変わらず昔から話の内容覚えてないと言うか聞いてないことが多いんだよな。  

 僕が毎回言わないとわからないし、いい加減治してほしいところだ。


 気がつくと宮殿前まで歩いていた。

 そういえば、エトワールと魔族の戦いとは別に、幼い頃に読んでいたもう一つの絵本があったことをふと思い出し、「僕、図書館寄ってから帰るわ」とだけ言って図書館に寄った。


 図書館には入ったものの、具体的に内容が思い出せなくて数千冊ある本の中を片っ端から探す。棚一つの確認が終わり、曲がり角を右に曲がろうとした時、人とぶつかった。


「きゃあ!」

「ご、ごめんなさい…」


 そこに尻もちをついて倒れていたのは紫がかった銀髪に紫色のドレスを身につけた僕より少しだけ小さいくらいの女性だ。ドレスから見て、お金持ちの娘らしい。相当お金持ちなのだろう。アクセサリーからバックから全てがブランド物ばかり。エトワールに大金持ちなんて…その瞬間ハッとする。


「ルミール…」


 小声で名前を唱えると聞こえていたようでルミールも少し驚いたように目を見開く。


「なぜわたくしの名前を、、?」


「いや、有名な情報屋ってのを噂で聞いて…」


 僕はオドオドしながらもそう言う。


「…あなたもわたくしの家族について知りたいのですか?」


「…え?」

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