第9話「先生。」

 「せいエトワール学園」

 生命と学問を大切にする緑豊かな学校。エトワールの住民だけでなく、沢山の人が通っていた。学問は栄え、人と交流する機会も多くあり、様々な行事や体験をすることができる。


 評判もものすごくよく、親子共に大満足らしい。担任の先生は生徒が選ぶことができて、自分に合った担任を決めることもできるし、そもそも先生もみんないい人で、いじめも相当少ない。こんな学校が、僕も大好きだった。でも…


「この学校はもうないんだ。」


 ほとんど崩れてしまった学校の瓦礫を踏み、無くなった学校を眺めてそう呟く。


「…うん。そうだね。」


 泣きながら震えた小さな声を出すエマの背中ににそっと手を置き、励ましながら背中をさする。


 もう一度辺りを見渡すと、警察が何か探しているのが見えた。僕は少し歩いて近くの警察官に話しかける。


「すみません。何か探しているんですか?」


 警察官は少し驚き、頭を掻きながら答える。


「あーここで魔族に一人の人が殺されたことはわかっているのですが、肝心の遺体がなくて…」


 僕は目を見開く。エマもその声を聞いて走ってくる。


「本当ですか?」


 エマは少し早口になって言う。


「はい…必死に探しているのですが、血の跡しか見つからなくて…」


 警察官の言うことに、僕は疑問を持った。

 殺されたことはわかっているのに、なぜ遺体が見つからない?魔族が持っていったのか?でもそんなことは普通ないし…


 うつむいて考えていると、エマが口を開く。


「ちょっとここら辺見ていってもいいですか?」


「え、まぁいいけど、もう色々回収されたから瓦礫や破片以外何もないと思うけど。」


 戸惑いながら警察官はそう言い、それを聞いて「ありがとうございます。」とだけ言ってすぐに歩いて行く。僕も追いかけるようにエマについていった。


「何かあるの?ここに」


 僕は疑問に思いながらも、エマが何か探しているようなので瓦礫をどける。


「片っ端から探せば先生の私物が見つかるかもしれないじゃん。」


 エマは真剣に隅々を探している。本当にエマは先生が大好きなんだな。手伝ってやるか。


「…今いる場所は一階で言うとトイレなんだよ。だから、私物を探すなら職員室が一番いいと思うけど。」


 僕はそう助言すると、エマは少し明るい声になる。


「あぁー、確かに!天才じゃん!」


 僕は戸惑いながらも周りを見て職員室の位置を当てる。「あそこだ。」と指差した先には、瓦礫でよく見えなかったが押しつぶされた机があった。


「ここを探せばいいと思うよ。瓦礫で壊れてるものも沢山あるけど。」


 僕がそう言うと、エマは「ありがと!」と言ってすぐに探し始めた。




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