第8話「紅(あか)い月」

「なんだ...あれ...?」


 そこに見えた光景には、思わず目を疑がった。

 目の前に見えるのはくれないに染まった月。どこか禍々しい雰囲気を出している。

 それだけではない。よく目を凝らしてくれないの月を見ると、羽が生えた人影のようなものが右から左に動いて見える。


「魔族か...?」


 魔族の中には、羽が生えた魔族もいる。しかし、魔族にしては羽と体の比率がおかしく、羽が大きいような気がした。


 人影のようなものはすぐに暗闇に消えてしまい、「気のせいか?」と呟きながら僕は家に向かって走った。



 次の日の朝、エトワールには紅の月の話題で溢れていた。何事もなく僕は帰れたが、一つの悲報を耳にすることになる。


『ピンポーン...ピンポーン』


 数回インターフォンが鳴り、僕は少し眠さを抱えながらドアを開けた。


「アル!!大変!!」


 エマの大きな声に僕は困惑しながらも目が覚める。


「な、なに...?」


 そう聞くとエマは悲しそうな顔をしながら数秒うつむいてから答える。


「...学校が...魔族に...」


 衝撃を受ける。そしてその瞬間、僕は紅の月に映った黒い魔族のような影を思い出した。


「今学校は...死者は出たのか..?」


 僕の言葉を聞いてエマは少し涙をこらえるかのように、「あのね、」と話を進める。


「学校はボロボロになっちゃって、死者は...」


 数秒間を開けると同時に、エマの瞳からおさえきれなかった涙が頬を伝う。


「たまたま残っていたアミ先生...」


 その瞬間僕は言葉を失う。アミ先生は、僕たちの担任をしていた優しくみんなに人気の先生。いつも夜遅くまで学校の点検などを率先してやっているらしいので、昨日の夜も点検していたのだろう。でも、それが原因でアミ先生は....


 僕は思わずもらい泣きしそうになったが、僕だけはちゃんとしないとと思い、エマの肩を軽く叩く。


「悲しいね、あのアミ先生だけが死んでしまうなんて。僕は今から学校を見に行くけど、エマも来る?余計気分悪くなっちゃうから嫌っていうなら、全然大丈夫だけど。」


 少し優し目のトーンで声をかける。


「...いや、私も学校とアミ先生にありがとうって言いに行かないとだね…いこ!」


 手で目を擦って後ろを向く。

 

「ほんとに、エマは心が強いよなぁ。」

 僕はそう思いながら、一滴の涙を流した。


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