第7話「朽ちた剣は希望を与える」

 アーサー・エトワール率いる四人の英雄たちが魔王を討伐してから数年、一つの町が生まれた。初めは小さい町だったが、エトワールの人気によって、町にどんどん人が集まり、いつしか「エトワール」と呼ばれる都市になるほど大きくなり、アーサー・エトワールはずっと人気者だった。このまま平和な暮らしが続くと思っていた。


 しかしその時は突然現れた。アーサー・エトワールが息を引き取ったのだ。亡くなったのは宮殿の裏にある小さな庭。そこに「英雄の剣」と周りから呼ばれるアーサー・エトワールが愛用していた剣が地面に突き刺さっていた。


 その剣はアーサー・エトワールの墓となり、強靭な肉体を持った戦士も、心すら癒す魔法使いも、天才的頭脳を持った少年も、陰でそっと涙を流して花を添えた。



 僕は静かに絵本を閉じる。やっと見つけたこの本は、僕が幼い頃によく読んでいた本。アーサー・エトワールと仲間たちが、中心都市エトワールを開発するまでの物語をざっくりと可愛らしい絵と優しい言葉遣いの文章で書かれた子供に人気の絵本。僕も当時大好きで、今でもエトワールで生まれたことを少し誇りに思っている。


 今では裏庭に突き刺さった剣は朽ちて形だけ残り、添えられた花も儚く散ってそのまま残っているらしい。

 誰も手を付けずに放置されてきたのではなく、「手を付けない」という方法で大切に守られてきた、宮殿やこの大都市エトワールよりも神聖で美しいと言われている裏庭。一度も見たことはないが、朽ちた英雄の剣に光が差し込み、地面を少し色が黒くなった花びらが彩る。そんな風景を想像してしまう。


 僕は本を本棚にしまい、図書館の扉を開け、廊下を進んで宮殿を出る。

 上を見上げると濃藍こいあいの空が広がり、家や街灯の光がエトワールを包んでいる。


「やっば、もう夜じゃん!」


 僕は指輪を使って時間を表示させる。時間は21時、僕はダッシュで家に向かう。曲がり角を左に曲がった瞬間、向かい風が吹き荒れる。


「風つよっ...!」


 僕は思わず目をつむって後ずさりする。数秒たって風が落ち着いてきたため、目を見開くと、パッと目に入ったものがあった。


「なんだ...あれ...?」


 僕は目を見開いてそう呟いた。





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