第6話「知らなくてもいいこと」

「あ、あの、家族のことを知りたいって…?」


 戸惑いながらも僕はそう言う。


「あら、違うのですか?」


 ルミールはなぜだか驚いた表情を見せる。


「では何を聞きに…?」

「えっと、新魔王についてなんですけど…」


 ルミールは少し安心した顔で話す。


「そのことでしたか。もしかして旅人さんですの?」


「いや、そう言うわけじゃないんですけど…」


 よくよく考えてみれば僕はただの学生。加えて雑魚スキル。そんな僕が魔王のことを知っても何も意味がないのでは、と不本意ながら思ってしまった。


「わかりましたわ。ですがまだ魔王の正体は明らかになっておりませんの。あくまで噂に過ぎない、それでもよろしくて?」


「そんなあっさり…」


 武器屋のおじさんから聞いた話だとお金持ちの喋りやすいお嬢様って感じがしたが、ちゃんと礼儀のある人じゃないかと思い、思わず口に出す。


「どうかなさいました?」


「あ、いや、話しづらい人って噂で聞いてたから案外あっさり言ってくれるんだなって…」


「…最近、わたくしの嫌だと思っている事ばっか聞いてくる人が多いのですわ。そういう質問に対しては、失礼ながらも無視しているのです。だからそう思われてるのだと思いますわ。」


 ルミールは乾いた笑顔を見せ、「そう言えば魔王のお話ですわね。」と言って話を変える。


「最近モンスターの中でも、急激に魔族が強くなっておりますの。これは魔王が誕生したのもそうですが、昔の魔王よりもはるかに強いため、部下たち魔族も強くなっていると言われていますわ。」


 はるかに強くなった魔王…

 前の魔王がどのくらい強いかは知らないが、アーサー・エトワールではないと倒せなかった魔王も強いと考えると、寒気すら感じてくる。


「知ってる情報はこれだけですの。あまりお役に立てなくてごめんなさい。」


 ルミールは丁寧に頭を下げる。


「いや、別に僕が聞いた話なので大丈夫ですよ!むしろこちらこそすみません!付き合ってもらっちゃって!」


 僕も少し頭を下げる。するとルミールは「あなたはいい人そうね。」と言いながら後ろを向き、図書館の出口に向かう。


 もう一度「ありがとうございました!」と大きな声で僕は言う。


貴方あなた、図書館に来たと言うことは本を借りるのではなくて?夜も近づいているので気をつけて帰ってくださいね。」


 僕はルミールの言葉を聞いてハッとし、「ルミールさんも気をつけて!」と言って図書館の奥の方に少し駆け足で行く。


「…貴方みたいな純粋な人が知らなくていいことなんてたくさんあるわ。私も傷つかなくて済む。」


 扉を閉め、ルミールは小声でそう言った。






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