第3話「魔族と意地っ張り」

「起立。気を付け。礼。」


 チャイムと号令で放課後が始まる。さっきまでの静かさは一変し、一気に賑やかになる。


「お前固有スキル何だった?」

「え、まじ?!それは強すぎ!」


 嫌なくらいに固有スキルの話が盛り上がっている。そしてところどころクラスメイトが僕のスキルについて話している。


「そういえば、アルの固有スキル...」

「しっ!言っちゃだめだよ...可哀想でしょ...」


 僕は何も言わずに通り過ぎ、教室を出た。何も言えない自分が悔しくて、僕は歯を食いしばる。

 そのことばかり考えながら五分ぐらい歩いた時、事件は起こった。


「キャー!!」


 女性の悲鳴が聞こえ、すぐさま僕は駆けつようとする。しかし、そこにはツノと翼の生えた人がいた。


「魔族だ...」


 学校で習ったことはあったが、実際に見たのは初めてだ。

 僕は恐怖で足が動かなくなり、手が小刻みに震える。


「どーしたおめぇら!平和ボケしてんじゃねぇよ!!」


 魔族は右手で女性の頬をビンタする。


「平和とか夢見てんじゃねぇよ!この世界が魔王様に支配されるのも時間の問題だからな!!」


 煽るような叫びは、僕たちに不快感を与えるが、実際強いのは確かで誰も手を出せない。

 そんな時、一人の少年が前に出た。


「ごちゃごちゃうるせーな。黙っとけよ下っ端。」


 くすんだ茶色で短髪の少年だ。背は小さめだが、魔族にひるみもせず、むしろ高圧的。彼は頭を掻きながらそう言う。


「あ?誰だおめぇ。身長ちっせぇ癖によく言えるな。」


 魔族もその態度には怒りが込み上げてきたようで、イラつきながら少年に近づく。


「俺が誰か教えてやるよ。俺は最強になる男、『フィック・フォージャー』だ。お前なんかゴミ同然だ。」


 負けじと彼も言い返す。流石にその発言には頭に血が上ったらしく、フィックの胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。


「魔法もろく使えない人間ごときが黙っとけ!!」


 魔族が怒鳴ったその時、宮殿の人たちが杖を持って魔族を囲む。


「止まりなさい!動くなら殺しますよ!」


 宮殿の人たちは杖を構え、魔法陣を生成する。きっと魔族を殺す魔法だろう。


「くっ...ここはひとまず退散だ。次はぶっ潰すからな、ガキが。」


「あぁ逃げることしかできない無能下っ端。受けて立つ。」


 魔族とフィックは最後まで煽り合い、魔族は姿を消した。



「大丈夫!?」


 僕はすぐさまフィックのところに駆けつける。


「別にこれくらい平気。」


 彼はあっけらかんとしながら言う。


「でも...血が...」


 胸ぐらには魔族の爪でつけられた傷があり、服にまで血が染みている。


「別に、これ血じゃないし。」

「いや、血でしょ!」

「自分でつけただけだし。」

「え!?そうなの!?」

「...うん。」


 そんな会話を繰り返しながらも、僕はフィックの止血をした。

 

「君、フィックって言うの?」

「...違う。」

「え、違うの?」

「...うん。」


 というかさっきから嘘ばっかついているような...?まぁそれよりも止血だ。

 僕は必死に止血をする。結構傷が深く、苦戦はしたが何とか出血はおさまった。


「とりあえず止血はしたけど、念のため病院に行こう!立てる?」

「...別に立てるし。」

「でも痛そうじゃん!おんぶするよ!」

「...やだ。」

「遠慮しないで!」


 僕は少し強引にフィックをおんぶして、病院へと向った。





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