椿売、久君美良、鎌売。咲き誇る鮮やかな三色の花。

あでやかな椿売のエピソードから始まるこの物語。美しい椿売は「己の美しさに自覚的で、誇り高く、本気で大豪族の吾妹子を狙って、上毛野君の屋敷の女官となり」ます。狙いどおり、彼女は意氣瀬さまの寵愛を受け、ささ、これでハッピーエンド!……とはいかないのが男女の仲。

椿売の同僚として女官を務めていた久君美良もまた、自分の女としての魅力に意識的で、「男を包む優しさと、男の保護欲をそそる手弱女ぶり」で意氣瀬さまにアピールしようとします。

そんなふたりを見ながら、三人目の女官、鎌売は「あたしはあたし」とばかりに、我が道を行きます。彼女には、なんとしてでもわが手にもぎ取ってみせると決意した野望がありました。椿売、久君美良とはまた別の、輝かしい夢。そんな夢に向かい、ぎらぎらと目を光らせて猛進する鎌売にも、素敵な出会いが訪れ……。ふふ、ごちそうさまです。

こう書くとまるでほのぼの恋愛小説のように見えますが、そんなものじゃあありません(笑)。何といっても、三人が三人とも人を焼き尽くさんばかりの激しさを秘めているのですから(すみません「秘めて」いない方もいました)。夢を叶えるためには、生き抜くためには、いっときたりとも気を抜けないのです。男女の駆け引きも、美しい衣装や化粧も、柔らかな微笑みも、真剣なのです。

華やかな美の裏に流れる熱い血のようなものを感じるお話です。

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