愛されて美しい女、ひたむきで情熱的な女、そして、出世したい女。
奈良時代に生きる女たちの、それぞれの愛の姿、欲望、そして生きざまを鮮烈に描いた作品です。
読みやすく、面白いです。
次はどうなるの、えええっ、と驚きの展開に、息をのみ、夢中になってしまいます。
現代の女性にも通じる、素敵な男性を愛したい、愛されたいという欲望。
また、キャリアを積んで出世したいという希望。
さらには、愛するゆえの裏切り。
それらがからみあって、仲良し三人がどんな道を歩んでいくのか。
ぜひ、見届けてください。
女性に特におすすめします、めっちゃ面白いですよ。
あでやかな椿売のエピソードから始まるこの物語。美しい椿売は「己の美しさに自覚的で、誇り高く、本気で大豪族の吾妹子を狙って、上毛野君の屋敷の女官となり」ます。狙いどおり、彼女は意氣瀬さまの寵愛を受け、ささ、これでハッピーエンド!……とはいかないのが男女の仲。
椿売の同僚として女官を務めていた久君美良もまた、自分の女としての魅力に意識的で、「男を包む優しさと、男の保護欲をそそる手弱女ぶり」で意氣瀬さまにアピールしようとします。
そんなふたりを見ながら、三人目の女官、鎌売は「あたしはあたし」とばかりに、我が道を行きます。彼女には、なんとしてでもわが手にもぎ取ってみせると決意した野望がありました。椿売、久君美良とはまた別の、輝かしい夢。そんな夢に向かい、ぎらぎらと目を光らせて猛進する鎌売にも、素敵な出会いが訪れ……。ふふ、ごちそうさまです。
こう書くとまるでほのぼの恋愛小説のように見えますが、そんなものじゃあありません(笑)。何といっても、三人が三人とも人を焼き尽くさんばかりの激しさを秘めているのですから(すみません「秘めて」いない方もいました)。夢を叶えるためには、生き抜くためには、いっときたりとも気を抜けないのです。男女の駆け引きも、美しい衣装や化粧も、柔らかな微笑みも、真剣なのです。
華やかな美の裏に流れる熱い血のようなものを感じるお話です。
この物語は大きく分けて、椿売の章と鎌売の章、となっていますが、私は敢えて、咲き乱れる事のかなわなかったもう一つの恋も入れたいなと、三人の女官の物語、としました。
上毛野君にあくる日、三人の女官がやってくる。
三人とも女性として魅力的ですが、三者三様の女官人生を歩む。
椿売の禁断の恋…
久君美良の嫉妬に歪んだ恋…
鎌売の相思相愛の恋…
既に「蘭契ニ光ヲ和グ」と「剡剡」と「あらたまの恋 ぬばたまの夢 〜未玉之戀 烏玉乃夢〜」を読んでいるならば、椿売と鎌売は登場人物として出てきます。
他の物語の登場人物として出ていた時にはこのような背景と人となりがあるとは思いもしなかったです。
加須千花ワールドを深掘りしていく中で見えてくる恋の様々な形に、人の生き方とはまさに恋愛と共にあるのかと思わされてしまいます。あくまでも人生の一部分なのでしょうが、人の人生を狂わせ、彩り、救い…
こんな事を言っていると、鎌売に、ピシャリと叩かれて、「恋愛で人生狂わせるなんて、やっちゃあいけないよ」と怒られそうです 笑
奈良時代の物語。
同様の時代、舞台で交わる人々を、いくつもの物語として紡いでいる作者様。
そのどれもが情緒的で胸を熱くするものですが、私は特にこの物語を推したいです。
女官として務め始める三人の若い女性。それぞれに良いところを持ち、先を思いながら友情を育みます。
微笑ましい女友達のやり取りも可愛らしく…。
しかし、恋情は、時に己の心を別のものに変えてしまいます。
恋とは、落ちるものなのです。
椿売の章は、物語が進むにつれ、男女の情愛に揺れ動く心と、ままならない嫉妬や抑えきれない想いが膨れ上がります。
そういうものを生々しく表現しながらも、どこか清々しく、胸に沁みる描写は圧巻です。
鎌売の章は、恋に落ちながらも、内の愛情を真っ直ぐに育て、なおも夢に向かって突き進む女性の強さが描かれます。
どこを読んでも、力強い生命と愛を感じる物語。時代物は…と思う方も、まず一頁開いてみることをお勧めします。
驚くほど引き込まれますよ!
僕はこの物語を読んで、筆者様の力量に驚愕致しました。それは知識や感性は元より、さらに構成や筆力の秀逸さを越え、ある点おいてさらに尋常ではない力量をお持ちだからです。
さて、物語で最重要点とは何でしょう?
現在の創作の世界では「キャラクター」だと言われております。勿論、異議を唱える事ではございません。でもね、実は重要なのはその先なんです。
大切な事は、誰も教えてくれません。
でも今日は少しだけ書きたい気分、だからその先について少し触れます。
その大切な事のひとつ、それは「ケミストリー」なんです。「キャラ」が重要である正しい意味とは、キャラとキャラがぶつかった時に生まれる煌びやかな輝きにこそあります。そして、その巧者だけが物語を生かし魅了する、そんな大事な小説技法のひとつなのです。当たり前で難しい事。その「ケミストリー」を起こせないキャラ同士の物語は、残念ながら読者を魅了する事など不可能でしょう。
ゆえに、こちらの物語はその点において、元々から秀でておられる稀有で圧倒的な筆力がさらに華開き、魅力的な登場人物が幾重もの想いのままに交差すると、その深度と情感が、時に美しく、時に優しく、時に狂おしく、時に切なく、時に激情を孕み、さらには心が激しく震える程の「美しさ」に満ち溢れ、その素晴らしい余韻が読み手に深く染みわたり忘れ得ない、そんな得難いものでございます。
心奪われるとは、まさにこの筆者様の紡がれる物語にこそふさわしい言葉であると僕は思います。
お勧め致します
煌めく才能、その輝きは天蓋に遥か昔より輝く美しい星々の様に、時を経ても尚色あせない「人の持つ想いの深淵」へと到達しておられると思います。長々とレビューする必要もない程の、才気溢れる筆者さまの素晴らしき物語です。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
奈良時代の男と女のあんなことこんなことを、現代バージョンで書き記す加須千花ワールドの最新作♡
時代活劇とは思えない素敵でわかりやすいストーリーと、当時の言葉と文化が見事に融合した大傑作はそのままに、今回は、椿売と鎌売のふたりの女性にフォーカスしたお話で、殿方も女性も読んでいてキュンキュンとむらむらしちゃうこと間違いなしな素敵なお話♡
とはいえ、女性目線でのこの時代の恋愛事情。
儚い思いと悲しい出来事も沢山あります。
肌を重ねる女性の思い、揺れ動く感情。移り変わる人への愛情。
愛に生きる女性の強さと愚かさに涙することもあるかと思います。
残された者の哀愁や黄昏。
その内面を描く抒情的なストーリーは、人の本質を見事に捉え、読み手は感情移入してしまうはずです。
だけれど、登場人物の表情はとても豊かで、人を思う温かさ(時には燃えるような熱さ)がお話から伝わり、心からほんわかとさせてくれる本作(#^^#)
このレビューで気になった方!
優しく妖艶な加須千花ワールドはどのお話から読んでも大丈夫!
各お話は繋がっているけれど、全てが独立した素敵ストーリー♡
読書の秋!是非この作品ですてきな読書時間を過ごしてみては?
舞台は上野(かみつけのくに)国の屋敷――現在の群馬県あたりだと思います。
のどかな自然と豪族屋敷の華やかさが共存していて、とっても魅力的。
でもさらに惹かれるのは、まさに生きていると形容したくなる登場人物たちです。
豪族の屋敷に女官としてあがった三人の女性たち。
それぞれの人生と恋、仕事と人間関係――彼女たちが織り成す悲喜こもごもが描かれます。
本作には完璧な善人も、圧倒的な悪人も出てきません。
きっと読者も人生のどこかですれ違ってきたような、人間くさいキャラクターたちです。
優しい心を持つ者が、時には憎しみの塊にもなり得る。
それこそが不完全で矛盾に満ちた人の心なのだと、
作者様があたたかいまなざしで描かれているのが感じられます。
人物描写が巧みで非常に読みごたえのある作品です。
万葉集の引用(現代語訳付き!)も楽しいですし、
奈良時代に興味がある方もない方も、ぜひ開いてみてください!