閑話 戻れない女達、美家緩衣

 私の住むマンション。

 寝室のベッドで男は私に乗し掛かり、必死で腰を振る。

 拙いグラインドだ、動きに合わせないと直ぐに奴のモノ◯んこは私から抜けてしまいそうになる。


「いいか!良いんだよな!?」


「...ァ?ハアン」


 男の叫びに似た声、仕方ないので私も喘ぎ声で応える。

 こんな茶番に近いセックスで、私が感じる筈も無い...


「あぁイク!」


(...え...もう?)


 バカげた声を残し、男は果てる。

 もちろん避妊具ゴムは着けさせているが、それでも中で出すか?

 それだって、私が言わなければコイツはナマでする気だった。


「ふぅ...良かった」


「...まあ...そうね」


 ベッドから身体を起こし、男は満足気に電子タバコの煙を燻らせる。

 なに勝ち誇った顔をしてるんだコイツは。


「本当に緩衣も凄いな、俺のテクに堕ちなかった女なんか、そうは居ねえ」


「それは...どうも」


 何が俺のテクだ、こんなので堕ちる女なんか所詮ザコ、紛い物。

 本物を味わった私からすれば、アクビが止まらないセックスだ。


「もう一回する?」


 それでもコイツは彼と別れてから出会った男の中では一番マシだ。

 身体の疼きを治めるには...


「おい...ちょっと待てよ」


 男の下半身に伸ばした手、奴は腰を引きながらベッドから降りた。


「今日は終わりにしてくれ、俺もう空ッケツだぜ」


「そっか...」


 ふらつきながら男は脱ぎ捨てていたパンツを履き、服を着る。

 なんて虚弱な男、まだ始めて三時間弱で、回数だって5回しか出してないのに。


「それじゃ、また会社で」


「うん」


 同僚の男は腰を押さえながら、部屋を出て行く。

 愛を囁かないのが何より、そんな事を一度でもしたら、奴との関係はそれまでだから。


「シャワーでも浴びるか」


 浴室で汚ならしい汗と体液を洗い流す。

 こんな惨めな気分を味わうなら、セックスなんかしなければ良いのは分かっている、だけど...


「クソビッチ...」


 つくづく自分がイヤになる、

 セックスを遊び感覚で楽しみ、快楽と背徳感に溺れていた結果がこれだ。

 本当の快感を身体に刻み込まれ、未だに抜け出せない...あの素晴らしい快楽の記憶が...


 歯を磨き、口を濯ぐ。

 どれだけ色々な行為に及ぼうとも、絶対にキス口づけは許さない。

 それは三年前、最後に彼として以来、決して許してはダメだと誓った。


「...亮二」


 脳裏に浮かぶ一人の男。

 私は彼に染められた。

 単に肉欲を満たすに過ぎない行為だったセックスの本質を、その真実を分からせてくれた男....


「...会いたいよ」


 彼は今どうしているの?

 ずっと行方を探しているが、未だに掴めない。

 亮二の家族には聞けない、近づくだけで警察に捕まってしまう。

 それは私や、佳留子、他の女達も同じ命令を出されてしまった。


「ふう...」


 身体に直接カッターシャツを羽織る。

 これは亮二が残していった貴重な想い出の品、私が彼の誕生日プレゼントに贈った物。


 私達は亮二を一年の間、連れ回した。

 行く先々のホテルや旅館で、飢えた獣の様に身体を合わせた。


 亮二との関係は脅迫に近い始まりだった。

 当時ルームシェアをしていた佳留子と亮二がセックスの後、素っ裸で寝ていたのを目撃したのだ。


『嘘...何あれ...信じられない...』

 亮二のモノサイコガリバーを初めて見た時の衝撃は今も忘れない。

 セックスに淡白だった佳留子が恍惚の表情で口からヨダレを垂らしたまま眠っていたのにも驚いた。


『私も...』

 これを試さない手は無い。

 私は携帯のカメラを起動させ、二人眠る姿を写真に収めた。


『私を満足させたら、言わないであげる』

 意識を取り戻し、焦る亮二に私は言った。

 モノがデカイだけで、たいしたテクニックは無いと思ったのだ。


『...緩衣、本当に良いの?』

 あの時、佳留子が言った。

 その言葉が示す真意が分からなかった。

 ザコの戯言、経験の浅い女が何をと...


『アァァァハァァア!!』

 ...ザコは私もだった。

 圧倒的な亮二の精力に私と佳留子は二日間、蹂躙され続けた。

 それは人間として、至高の雄が塵芥の雌に見せつけた格の違いだった。


「...会いたいよ」


 亮二に会いたい。

 セックスに填まり過ぎ、放置していた互いのクソ野郎元カレに全てが露見したのは痛恨だった。


『お前が間男か!』


『あ...これは一体?』


『とぼけるな、よくも彼女を寝取りやがって!!』

 いつもの様に亮二を連れ、セックスを楽しんで帰宅すると、待ち構えていたウジ物チン◯が叫んだ。


『違うのよ亮二...』


『そうよ、貴方は何も...』

 必死で亮二を宥めた。

 男達を追い払い、知り合いの女を亮二に次々とあてがった。

 独占出来なくなるのは残念だが、それ以上に亮二を失うのが怖かった。


 ...これが悪手だった。

 填まった女達は、みんな貪る様に亮二を求め始めたのだ。

 いくら人並み以上の精力を誇る亮二とはいえ、彼とて神ではない。


 一度に三人以上の女達を連日相手にして、無事で居られる筈もなかった...


「佳留子に連絡するか、何か情報を仕入れたかな?」


 亮二と引き離され、失意の内に残りの大学生活を過ごした私達。

 卒業後はたまに連絡をやり取りするだけになってしまった。


 お互い掲示板を使い、亮二の情報を求めるスレを立てているが、何も掴めないまま。

 どうやら妨害している奴が居るらしい。


 それは誰なのか、ひょっとしたら他の女達の仕業かもしれないが、今どうしてるのか分からない。

 佳留子は絶対諦めない、犯人を捕まえ、亮二と再会すると言っていた。


「もう一度、亮二お願い...」


 カッターシャツに涙が滲んだ。

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