第4話 逃げて来た男、亮二
紗央莉に噂の出所を調べて欲しいと頼んで2ヶ月が過ぎた。
元カノに助けを頼むと言うのも、情けない話だが、自分の手に負えないので仕方ないのだ。
無敵の男について書かかれていたインターネット掲示板は紗央莉から教えて貰い、一緒に確認した。
そして見たのは、明らかに俺と思われるエピソードの数々だった。
一部に誇張はあったが、更に俺の写真まで上げられていて、スレ民達が特定すると盛り上がっている様子は、生きた心地がしなかった。
『これは二年前から定期的に、ずっとなの』
『...げ』
紗央莉からそう言われ、気を失いそうになった。
ようやく女達から逃げて、平和な生活を手に入れる事が出来たと思っていたのに。
『女達に心当たりがあれば、正直に教えて』
『それは...』
どうしても紗央莉に言えなかった。
女達につきまとわれ、その彼氏からも逃げまわった悪夢の記憶、恐怖を話す事は出来なかった。
『このままじゃ手遅れになるよ』
紗央莉は少し焦りの表情を浮かべた。
掲示板のIPアドレスからでは個人の特定が難しいので、ヒントとなる情報が欲しいと言われた。
単に史佳と葛野の浮気話で、噂は大したことじゃないと思っていたのに、予想外だ。
『...言いたくない』
紗央莉にそう答える俺だった。
[絞り込みが進んだから、来週ここに来て]
そんなラインが紗央莉から届いたのは、もう史佳の一件から半年が経った頃だった。
書かれていたのは紗央莉の住むマンション。
正直気乗りしないが、不安を抱えたままの生活に疲れていた俺は、一週間後、その住所に向かった。
「いらっしゃい亮二」
「...何で紗央莉の家なんだよ」
紗央莉が一人で住むマンション、貧乏学生の俺とは違いがエグ過ぎる。
娘が大切なのは分かるが、紗央莉の両親は過保護過ぎないか?
紗央莉の両親とは以前に面識こそあったが、余り交際中、歓迎されてなかった。
だから部屋に入るのは尻込みをしてしまう。
「なら大学の学食の方が良かった?
それともファミレスか居酒屋?
もし周りに聞かれたら、無敵の男が来たって、噂になるかもよ?」
「ここで良いよ...」
なんて恐ろしい事を言うんだ。
校内で噂が拡がったりしたら、就職に影響が出るじゃないか。
卒業まであと一年、就職が決まったら、この土地を離れるんだ。
どこか東京の...いや外資系も悪くない、海外勤務も視野にいれたほうが良い。
益々地元は遠退くが、やむを得ない。
父ちゃん母ちゃん妹よゴメン、亮二は幸せになります。
「早く入って」
「分かったから」
紗央莉に背中を押され、促されるまま部屋に入る。
広く立派な室内に息を飲む、こんな部屋に紗央莉は住んでいるのか....
「座って」
「ありがとう、これお土産」
ソファーに座り、持参して来た紙袋を紗央莉に渡す。
なんだかんだ言っても、紗央莉には世話になっているし。
「...ありがとう、覚えていたんだ」
「そりゃ、まあな」
紙袋の包装紙を見た紗央莉の目が光る。
これは俺達が昔住んでいた町にある洋菓子店のパウンドケーキ。
今日の為、家族に頼んで俺のアパートに送って貰った。
「早速食べて良い?」
「ああ」
嬉しそうに紗央莉が笑う。
その笑顔に、忘れかけていた昔の恋心が胸を通り過ぎた。
「...美味しい」
「そりゃ良かった」
いかん、紗央莉の姿に目を奪われてしまう。
用意してくれたコーヒーを一口啜り、心を落ち着ける。
「で、犯人は分かったのか?」
ケーキを食べ終わったのを見計らい、紗央莉に切り出す、早く用件に移らないと。
「そう...そうだったわね」
紗央莉はテーブルに置かれていたノートパソコンを俺に見せた。
「...うげ」
モニターに写っていた二人の名前、忌まわしき女達だ。
「覚えがあるみたいね」
「...ああ」
紗央莉の態度は確信めいており、惚ける事は出来そうにない。
「この二人はまだ亮二の事を掲示板に上げているの、写真も全部貴方の画像だった」
「...そっか」
モニターに続けて映るのは三年前と思われる俺の写真。
ベッドで笑っているのや、夜景をバックにポーズしてるのまで。
「私と別れてから随分とお盛んだったみたいね」
「まあな...」
紗央莉の言葉を否定出来ない、確かにその通りだった。
「先ずはこの人ね」
紗央莉は一番上の名前をクリックする。
[
高二の時、俺がアルバイトしていた喫茶店の先輩で、当時大学生だった女...
「この女はどんな人だったの?」
「言わなきゃダメか?」
「亮二もこの人達が犯人じゃないかって思ったでしょ?
それを私に確信させて、自分で直接交渉するなら良いけど」
「それは....」
出来る訳無い、斜里の変貌とその後に起きた事は、俺にとってトラウマなんだぞ。
「...4年前、斜里に俺はよく相談していたんだ」
「相談?」
「お前の事をだよ、素っ気ないって」
「あ...ああ」
紗央莉はバツが悪いだろうな。
遠距離恋愛で離れて行く
一体紗央莉はどうしたんでしょう?って。
「それで斜里は親身になってくれて」
頼りになる先輩だと思ったんだ。
何しろ当時俺は高校二年、三つ年上の斜里は大人の色香を感じさせて...
「それでセックスしたの?」
「はい?」
なんで紗央莉はそこにいきなり切り込むんだ?
「いや最初はそうじゃなくて...」
「最後にはしたんでしょ?」
「はい...」
これはなんなんだ?
「相談に乗る振りをして、食べるなんて大概ね」
「まあ...それは」
「違うの?」
「違いません」
有無を言わせないな。
「その時の状況、詳しく教えなさい」
「はい」
なぜ紗央莉はボイスレコーダーをテーブルに置くんだ?
しかし反論出来ない俺は、斜里と起きた顛末を話す。
紗央莉に突然別れのラインを送ったのは斜里が言ったからだ。
『彼女の言い訳を聞いたら決意が揺らぐでしょ?
大丈夫、私は亮二が好きよ』
その言葉に舞い上がってしまった。
紗央莉と別れるには、段階を踏んで、なんて考えが吹き飛んだ。
そして俺は直ぐに斜里とセックスをしてしまった。
『よく頑張ったわね、お姉さんが慰めて上げるわ』
...失敗だった。
何しろ紗央莉と別れて一年、溜まりに溜まっていたんだ。
それに男としての自信も無くしていた。
『亮二じゃ
煽り言葉に乗ってしまった。
『嘘?アアアアァ!!』
我武者羅にヤりまくってしまった、それは丸1日、正に野獣の如く。
「サルね」
「紗央莉、そんな...事は...」
「違うの?」
「違いません」
再び頷くしか出来ない。
確かにそれから暇さえあれば毎日ヤりまくっていたけど。
何しろ斜里は親元を離れ、下宿のマンションで友達と暮らしていたので、ホテル代の心配は要らなかった。
「それでバカは堕ちた訳ね」
「...そうです」
なんだよ、まるで浮気を追及されてるみたいじゃないか。
「で、斜里とルームシェアをしていたコイツともセックスをしたのね?」
紗央莉はイラつきながら斜里佳留子の下に書かれてある、もう一人の女の名前を、手にしていたボールペンの尻で叩いた。
[
1ヶ月後、斜里としまくって、そのまま寝てしまって居る所を見つかってしまったんだ。
「直ぐにセックスするなんて見境が無いわね、信じられない」
「いや...直ぐって訳じゃなくって」
直ぐしたんじゃない、それに裸の写真を撮られて脅されたんだ。
『私を満足させられたら、言わないであげる』
美家の言葉に必死だった。
バレたら退学になる恐怖に二日間、トイレと食事以外、腰も砕けよとばかりに、美家とついでに斜里にも振りまくった。
『『も...もうダメ!アハァァァァ!』』
そう叫び、美家達は気絶した。
「だから俺は...」
「全く悪くないと思うの?」
「悪いです」
紗央莉の眼光、その睨みに俺の下半身がヒュっとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます