第5話 まだ諦めない女、史佳

 クズ野郎爪楊枝満夫との浮気がバレ、亮二から別れを告げられ8ヶ月が過ぎた。


 クソ野郎は私だけじゃなく、他の女達にも似たような手口を使い、被害者を生んでいた。

 紗央莉のお陰で、クソ野郎は仲間共々警察に捕まり、私を始めとした女達のハメ取り映像はインターネット等にバラ蒔かれるという、最悪の事態は避けられた。


 私は警察に被害届けを出し、奴の親から賠償金を受け取ったが、示談には応じず、届けを取り下げたりしなかった。


 それは他の被害者達も同様だったが、全員とはいかず、数人は泣き寝入りになってしまったそうだ。


『まあ...忘れたいんでしょう』

 担当の弁護士の先生は悔しそうに呟いた。

 実際、数人の被害者は大学を辞めてしまった。

 奴等のセフレにされていた女達は周りから向けられる好奇の目に耐えきれなかったのだろう。


 幸いというべきか、私がクソ野郎のセフレとなっていた事は、周りに知られていなかったので、何とか被害を隠せた。


「ねえ...亮二...」


「矢田根さん何か用?」


「あ...レポートありがとう」


「どういたしまして」


 大学で亮二に声を掛ける。

 何とか接点を持ちたいが、亮二は素っ気ない態度。

 私の浮気が、最初はレイプから始まり、脅迫だった事を知った亮二だが、やはり別れは避けられなかった。


「あの...」


「まだ何か?」


「いや...お礼に食事どう?」


「遠慮します」


「そう...だよね、ごめんなさい」


 私の言葉を亮二は即答で断ってしまう。

 何とか普通の関係に戻りたいが、やはりそれは無理という事なんだろう。

 紗央莉が私の肩に手を置き、無言で首を振る。

 そのまま私達は亮二の側を離れた。


「やっぱり無理よ、まだ時間が掛かるわ」


「でも...」


 大学の帰り、私は紗央莉のマンションに寄った。

 紗央莉は亮二と別れた後も何かと私を気に掛けてくれていた。


「亮二の女性不信は治らないよ、あんな物ハメ取りまで見せられたんだから」


「だけど...それは」


 脅迫から始まっていた、でも途中からは...


「結果が全てだって」


「...うん」


 紗央莉も辛そうにうつ向く。

 彼女が亮二と別れた理由も聞いた。


 遠距離恋愛の失敗。

 恋人を蔑ろにし、新しい環境と刺激に遊び呆けてしまった後悔を...


「まあ、亮二が拗らせた切っ掛けは私だけど、悪化させたのはコイツ等よ」


「そうね」


 斜里佳留子と美家緩衣、この二人の女が亮二を壊した。

 亮二を慰めるという口実で爛れた関係を作った女達。


 まだ二人の行方は掴めない。

 探偵を使い亮二の地元を洗ったが、二人は三年前、大学を卒業すると同時に、家族の元から姿を消していた。


「...セックス中毒」


「そうね、アイツらは軽い火遊びのつもりだったんでしょうけど」


 探偵に調べて貰い分かった事実。

 コイツらは本命の彼氏が居るにも関わらず、亮二をセックスに誘った。

 体よく遊び、使い捨てにするつもりだった。


 なにしろ亮二は格好良い。

 いつも亮二は地味にしていたが、恋人だった私は気づいていた。

亮二はかなりのイケメンで、しかも当時通っていた高校は、その地域で一番の進学校だった。


 アクセサリーの様に亮二を連れ回し、肉体関係を続けた。

 二人は亮二の身体に填まり、いつしか、持てる時間の全てをセックスに捧げていたらしい。


 女の気持ちは痛い程分かる。

 私だって、半年間クソ野郎からメチャクチャ抱かれていたにも関わらず、たった一回の亮二としたセックスに全て塗り替えられてしまったんだ。


 今思い返しても、アレは天に昇る快感、至極の体験だった。

 結局二人は恋人を捨て、亮二を選んだ。

 しかし女の恋人は納得せず、亮二の存在がバレ、全員を巻き込んだ修羅場へと発展した。


 自分が遊ばれていたと知った時、亮二はどう思ったのだろう?

 計らずも自分が浮気相手で間男になっていたんだ、ショックだったのは間違いない。


 亮二を繋ぎ止めようとする女達は諦めず、ストーカーになってしまった。

 遊び仲間だった知り合いの女達を次々亮二に差し向け、セックスの相手をさせた。

 

 亮二が喜んだかは分からない、だが女達の形振りの構わない行動は、セックス依存の人数を増やしただけだった。


 さすがに身の危険を感じた亮二は家族に全てを話し、警察に駆け込んだそうだ。


 主犯の斜里と美家はそれぞれの家族に引き取られたが、それでも尚、接近禁止を無視し度々亮二に突撃を繰り返した。

 完全に狂っていたのだ。


「人生を棒に振ることになりかねないわよ、そこまでする?」


 紗央莉は信じられないといった顔をするが私には少しだけ分かるんだ、女達の気持ちが...


「私だって、あのまま亮二と引き離されていたら、そうなっていたよ」


「...史佳」


 私がクソ野郎のセックス奴隷にされていたのは、当然家族に知られてしまった。

 両親は大学を辞めさせようとしたが、私は拒んだ。


「...どんな形であれ、亮二と関わりを持ちたかった」


 大学に入って初めて出来た恋人。

 そんな彼氏を裏切ってしまった後悔、言い訳なんか出来ない。


 身体を汚され、思考も狂わされた私を亮二は助けてくれたんだ。

 それだけの破壊力を亮二のセックスは与えてくれた。


「遊びでも、一年間亮二とセックス三昧だった斜里と美家の身体に刻まれた快楽の記憶は絶対に消えないよ」


 間違いなくそうだ。

 だから二人は今も亮二を探し回っているんだろう。


「それだけ亮二は凄いのか...」


「逆に、どうして紗央莉が亮二とのセックス依存にならなかったのかが不思議よ」


「...そうよね、他の男に抱かれたいなんて絶対に思わないけど」


 紗央莉が亮二とセックスしていた期間は二年だという。

 私なら絶対に依存症になっていただろう。

 親の海外転勤なんか付いて行かない、亮二と片時も離れられないよ。


「紗央莉は本当に亮二を好きだったの?」


「それは間違いない」


 キッパリと言いきる紗央莉の目は真剣その物。

 本当に綺麗だよ、だから身を退くわけにいかない。


「紗央莉、私は諦めないからからね」


「...分かってるよ」


「絶対に...たとえ恩人の紗央莉が相手でも」


 私は紗央莉の目を見詰め返した。

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