あのね...

三文安

第1話 無敵の男、亮二

 俺の住む下宿に来た矢田根やたね史佳。

 交際二年、清楚で可愛い史佳と幸せになろうと頑張って、ようやくちゃんとした恋人と巡り会えたと感謝していたんだけど...


「ごめんなさい亮二...」


 土下座の姿勢を崩さない史佳が呻く。

 何度も止める様に言っても、一向に頭を上げる気配が無い、なんだか俺が悪いみたいじゃないか。


「だから、もう怒ってないよ」


「でも...」


「済んだ事だろ?」


「うん...」


 済んだ事だよ、もう取り返しは出来ない。

 史佳はもう恋人じゃない、3日前に別れたんだから。


「だから大好きな葛野かつのと幸せに」


「やっぱり亮二は分かってない!!

 あんなクソ野郎、好きな訳無いでしょ!」


「...あのな」


 分かってないないのはどっちだ。

 俺と付き合っていながら、陰で葛野かつの満夫とアンアンしてたんだぞ。

 好きな相手以外とセックスするか?


 史佳の浮気が発覚したのは3日前。

 大学でいきなり葛野に呼び出された。


『お前史佳に何をしたんだ?』


『何をって...』

 訳が分からなかった。

 その前日に俺は史佳と海水浴に行って、帰りに彼女の下宿するマンションで初めてセックスをした。


 史佳は処女じゃなかったが、そんな事は全く気にならなかった。

 俺自身それなりに経験があったし、史佳の反応も、かなりの経験を積んだ物で少し意外に感じた。


 以前の男に負けてなるものかと、少しハリキリ過ぎて、史佳が気絶するまで頑張ってしまったのは反省かな?


『史佳の奴、急に別れようって、ふざけるな!!』

 激昂する葛野に益々混乱した。


『何で史佳がお前と別れるんだ?

 あいつは俺の彼女...』


『ケッ、これを見ろ!』


 葛野は携帯の画面を見せた。


『これは...』

 それは史佳が葛野に抱かれている動画だった。

 拙い腰の動き、それに合わせ腰を回す二人の様子...


『お前が史佳とする前から、俺達はそういう事だ、初めても俺が貰ったんだからな、もうちょっかい掛けるな!』


『そうか』

 ここまで言われて黙ってる訳に行かず、俺はその場で史佳にラインを送った。


[葛野から話を聞いた、画像も見たよ。

別れよう]


 直ぐ既読が着いたので、着信拒否にしたんだ。

 これで終わったと思ったんだけどな。


「葛野にハメ撮りまで見せられたんだぜ、あんなの撮らせる時点で終わりだろ」


 あの映像は隠し撮りじゃなかった。

 カメラにアへ顔でヨガっていたんだ。例え俺としてる時より、全く反応が薄くても、アウトだ。


「...それ以前に浮気で終わりよ」


「紗央莉まで...どうして?」


 それまで無言で史佳の隣に座っていた嗣和しわ紗央莉が呟いた。

 紗央莉とは中学から高校一年まで付き合っていた元カノ。


 残念ながら紗央莉の父親が海外転勤が決まり、遠距離恋愛になった俺達の仲は消滅したんだ。

 でも今年になって、紗央莉が俺の通う大学に編入して来た。


「紗央莉、私の復縁に力を貸してくれるんじゃ...」


「勘違いしないで、史佳が最後に話をしたいって言うから、亮二に頼んだだけよ。

 別に元鞘の協力する為じゃないわ」


「...そんな」


 なにやら盛り上がってる、二人は友人だったからな。


「そういう訳だ。

 俺は史佳に会うつもりは無かったが、紗央莉がどうしてもって言うから話しだけは聞いた」


「イヤ!!」


 史佳が俺にしがみつく、涙と鼻水で凄い顔になってるぞ。


「だったら何で葛野とセックスなんかしたの!」


 そうだ、紗央莉よく言った!

 なんでチャラ男の葛野に身体を許したんだ?


「だって亮二は凄いって噂で聞いたから...私経験が無いから自信がなくって、葛野に相談を..」


 なんだよその理由は?

 馬鹿らしくて何も言えない。


「まあ...確かにね、私もその噂は聞いたわ」


「おい紗央莉」


 どうして紗央莉はそんな目で俺を見る?

 だいたい噂って何だよ、俺はこの大学に入って以来、史佳以外と誰ともセックスしてないぞ。


 まさか高校時代の元カノ?


 いやそれは無い。

 全ての縁を切って、実家から遠い大学に進んだんだ。

 携帯も変えたし、連絡も絶った、ここを知ってるのは実家の家族と学校関係者だけだ。


「...何だよ」


「さあ?相変わらずね」


 どうして紗央莉がジト目で俺を見る。


「この二年、したのは史佳だけだ!」


「どうだか?」


 すっとぼけやがって!

 だいたい俺が地元に居られなくなった原因の一つに、紗央莉も関係してるだろ。


「紗央莉、まさか亮二とセックスを?」


「昔の話よ」


「まあな...」


 史佳が信じられない顔で俺達を見る。

 単に中学と高校の途中迄一緒の学校で知り合いとしか言ってなかったな。

 実際は恋人で、お互いの初めてを捧げ合ったんだ。


 あの頃は何をどうやったら良いか、訳も分からずガムシャラだった。

 ...填まってしまってエラい事になってしまったがな。


「まさか今も...」


 そんな訳あるか!


「無いわ、再会した時に史佳と付き合っていたでしょ?

 友人の彼女を寝取る趣味は無いもん」


「嘘...信用できない」


 なにやら史佳の目が怖い。

 なんでこんな目で睨まれなきゃならないんだ?


「だってあんな凄いセックス知らないもん!

 今までクソ葛野としたセックスなんて子供の遊び、綿棒で臍のゴマを取ってる方がよっぽど気持ち良いわ!!」


「おい!!」


 何て事言うんだ!


「...分かる」


「でしょ?

 だからクソ野郎に言ってやったの、粗末なモノは耳クソでもホジってなさいって」


「コラ!!」


 そりゃ葛野がキレるのも分かるな。

 タメ息が止まらない俺だった。

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