振り返ればそこにある夏の日の汗のにおい、白いまぶた、そして

家出をして叔父さんのうちに転がり込んだ少年と、その叔父さんの物語

叔父さんはかつて、だれよりも美しく爪先で立ち、弓に反った背骨と優美で力強い指先で星を掴もうとして……掴めなかったバレエダンサーだ。

主人公の少年は聡明で、人の気持ちを汲むのに長けている。そう、自分が13歳でしかない、ということにも自覚的なくらい聡明なのだ。

オカワダアキナさんの作品の登場人物は、失敗したり、失敗とはいえなくても上手くいかなかったりした経験を静かに胸に落とし込んで、なんとか今日を生き延びようとしている人がおおいように感じる。この作品では、叔父さんがそういう人物だ。

主人公の少年は、まだ失敗してはいない。失敗するには若すぎる。叔父さんとのことだって、『世界がぶっこわれる』ようなことにはならなかった。

少年の日はめまぐるしく、さまざまなことが起き、一年、また一年、新しい人と出会い、成長する。
叔父さんも、そのひとりで、おそらくはとても大切な人のうちのひとりだった。
眩い春夏秋冬を駆け抜けながら、それでも振り返れば必ずそこにある、振り返りさえすればいつでも「その続き」を始められる……そう信じられる『あの夏の日』。

けれどもそれはたぶん、『少年』の特権なのだろう。
物語は、少年が大人になる、その日をもって幕を閉じる。
少年は、知ったのだ。
……振り返えれば、たしかに『あの夏の日』はある。でも、「その続き」を始められなくなることだってあるのだ、と。