春を待ち侘び夏を想う。冬を解かすのは、向日葵の歌。

凍てつく北大陸に、夏を呼ぶ少女リーザがやってきた。
リーザが歌で呼ぶ夏は、じりじりと肌を焼く嫌な酷暑ではなく、凍った雪や心までもを解かす向日葵のような温かさ。健気でひたむきでいたいけなリーザが息を飲むほど美しい歌を歌う描写に、とても惹き込まれます。夏を呼ぶという特異な体質のせいで虐げられてきた彼女の歌はそれでもなお希望に満ち溢れていますし、「謳おう」と呼び掛けてくれる優しい心根が大好きです。

そんなリーザが、北大陸の北方を支配するスメイア国の王に見初められます。嫁ぎ先は第一王子。でも、王の息子ではない。他の王子たちも血の繋がりはない。特異な王族の設定に隠された凍てつく冬を解かすために、リーザは今日まで生きて来たのだろうなと思いました。この世界観の深みは、ぜひご一読いただいて体感してほしいです。

どこかアラビアンな雰囲気を感じるネーミングや世界観も魅力的です。キーマンである王子たちもみんな個性豊か!お好きなイケメンが一人は見つかるはず!じわじわと火照るような恋愛小説がお好きな方にも、型に嵌らないオリジナル要素の強いファンタジーがお好きな方にもお勧めできます!

これから寒い季節が始まります。きっと人肌が恋しくなるはず。リーザの心地良い熱に身を寄せながら、春を待ちたいと思います。

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