「理想の世界が画面に映し出されて、取り込まれたら出て来られない」
設定の独自性、込められたメッセージ性とは対照的に、文体はあくまで淡々と、奇をてらったところがなく、読みやすい。
この飾り気のない真面目な語り口は、そのまま主人公のキャラクター性と重なってくる。
家族を含め、誰もいなくなってしまった世界にあってもなお、絶望に呑まれることなく、物語を共に歩むことができる。
それでも、寂しさは次第に膨らんでいって──主人公は空っぽの家に鍵をかけて、旅に出る。
旅立ちに必然を感じられる物語は、読んでいて心地が良い。普段はSFを読まない方にもオススメの一作。
人間の理想の欲望を映し出すウィンドウ「にんげんホイホイ」が全人類の前に……そして自分の目の前にも現れたら、しかもその中に飛び込むことが出来たなら?
たとえ「飛び込めば、もう帰ってこれない」と分かっていても……飛び込んでしまうのではないでしょうか。
際立って面白く考えさせられる設定、プロローグで見せつけられる様々な人々の「理想の世界」……まずはプロローグを、プロローグを読んでみてください。そこで惹き込まれたならば、あなたも物語に「ホイホイ」されるはず!
多くの人間が「ホイホイ」される中、現実世界を選んだ人々の巡り合わせ、繋いでいく絆と物語も非常に面白く、オススメです!
……えっ、私なら「にんげんホイホイ」されるかどうか? フッ愚問です、私がそう簡単に「ホイホイ」されるはずが……。
……「自作がアニメ化した世界」「猫まみれ・ザ・ワールド」「もふもふメイド・イン・ヘヴン」か……。
無理ですわ。私は完全にコレ、「ホイホイされる側」の弱いンぐヒューマンですゎ……(合掌!)
「人間ほいほい」あらゆる夢・欲望が無制限に叶う世界が、ある日あなたの隣に、ぱかっと口を開ける。
さ、カマ───ン♪
ほいほい。
ほいほい。
面白いほど、人間は、夢の世界に溺れたい欲求に勝てない。
それに勝てた、ガテン系おっさんの主人公。
生き残りを探して、旅にでる……。
ここは終末世界なのか。
生き残りは、少ない。
各地を巡っていく、秀逸なロードムービーであり、少年の成長物語であり、先の予想がつかない、はらはらドキドキの冒険ものでもあり、昨今の(WEB小説の?)流行「都合の良い夢がかなった〜」への痛烈な風刺でもあります。
そう、作者さまの、社会へ向ける目は、シビアです。
主人公が、妻子持ちのおっさんである事が、とても良いんですよ。
常識人だし、社会人として逞しいんです。
骨のあるSFを読みたい方、ぜひ!
実は中学生の頃のワタシは日本SFにハマっておりました。当時は日本SFの黄金期と言っても過言ではなかったと思います。その当時の日本SFビッグ3と言えば、星新一、小松左京、筒井康隆の仲良し3人組。中学生の私ワタシもこの3人のSFを読みふけっておりました。
星新一の日常が非日常的になったとき個人は何を選ばせるか考えさせるショートショート。小松左京のきっちりと科学的考察を重ねた上での日本と言う国や世界人類の滅亡を描く長編SF。そして筒井康隆のSFの枠を超える狂気じみたナンセンス小説や実験的小説の数々。実に素晴らしい読書体験でした。
しかしながら、星新一のショートショートを最後にここ十年以上、かつての日本SFビッグ3の作品からは遠ざかっておりました。でも、まさかカクヨムでその後継者と出会えるとは思ってもいませんでした。それが三流FLASH職人さまの大傑作、『にんげんホイホイ』です。
星新一の一人一人への非日常をどう生きるかという問いかけと、小松左京の日本と言う国家や世界の滅亡と言う状況に人はどう立ち向かうべきかと言う問いかけ。その2つを1度に味わえるとんでもない作品です。星新一と小松左京を足して2で割ったのではありません。その2つの作風を同時に味わえる作品なのです。2度おいしいのです。
10月1日に出会ったワタシはあまりの面白さにずずずずっと引き込まれてしまって、最初から最新話まで一気読みしました。一気読みと言うのも久しぶりのことです。
それぞれ各自の欲望をかなえる、小さなウインドウにが全人類の周りに現れます。そして、主人公を残してみんながウインドウの向こうの世界に消えていきます。向こうの世界へ行くことをためらった主人公は、まだ消え残っている人間を求めて旅することを決意します。
続きは作品本編をご覧ください。
(追記)さらに最近は筒井康隆的なシュールで下品なスラップスティックな笑いまでしっかりと取り入れてくれています。まったくもう、どこまで進化するのでしょう!