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 西暦2037年12月1日。

 前日に地表に再び姿を顕した影の化け物、フューカーシャが行った人類の第二選別によって、この星の人口は総数で45億人となった。

 去る10月9日まで、90億人を誇っていた人口の約半分の人々が“必要ない者”として断じられ、命の書から名前を抹消されたのである。


 人々の右手、或いは額には正刻印スティグマ-ピュシス-が刻まれ、これを持たぬものは世界に存在することが許されない。

 天空に顕現した城塞イデア・エテルナに座する神、デウス・エクス・マキナ タイプ=イベリスの意志によって善と悪に境界が敷かれ、彼女と繋がる人類の叡智たる最高のAIが人々の行動を監視し続ける。


 善のみが抽出され、悪が消し去られ、罪が消滅した世界。

 利権に縋ることを標榜した国家は天の意志に隷属し、今後二度と戦争という愚かな行為をしないと誓った。

 悪意も、罪もない新たなる理想郷。新たなるエルサレムに導かれた人々による人類の第二の歴史。


 その第一歩がこの日、この時から紡がれ始めたのである。


 天の意志に疑問を持つことは許されない。

 天の意向に逆らうことは許されない。

 行為を示せば、やはり命の書からその者の名は消されるだろう。


 空にて地を支配する者は、大いなる人類の叡智に、かの預言書の言を授けたのだから。


“この預言の言葉を朗読する者。

 これを聞いて、その中に書かれていることを守る者達は幸いなるかな。

 時が近付いているからである。


 貴方の見たこと、現在のこと、今後起ころうとすることを書き留めよ。

 貴方が私の右手に見た七つの星と、七つの金の燭台との奥義とは即ち、七つの星は七つの教会の御使いであり、七つの燭台は七つの教会を指し示す。


 私は一匹の獣が海から上ってくるのを見た。

 その頭部には角が十、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭上には神の名を汚す名がついていた。


 耳のある者は聞け。


 虜になるべきものはそうあれかし。剣で殺す者は、自らも剣で殺されなければならない。

 ここに聖徒達の忍耐と信仰がある。


 私はまた、他の獣が地から上ってくるのを見た。

 子羊のような角が二つあり、龍のように物を言った。


 小さき者にも、大いなる者にも、富める者にも、貧しき者にも、自由人にも奴隷にも――

 全ての人々の右手、或いは額に刻印を押させ、刻印を持たぬ者は皆、物を買うことも売ることも出来ないようにした。

 この刻印はその獣の名、或いはその名の数字を指し示す”




 とはいえ。

 天の意志に疑念を抱く者の存在もまた然り。

 何の因果か、何の運命か、導きか。唯一無二にして、神の意志に従わぬことを是とされる者達がいる。


 それは、預言書が語る内容を忠実に再現する為に、海の獣と地の獣、赤き龍という存在が必要だったからだろうか。


 天空城塞イデア・エテルナに叛逆するたったひとつの反抗勢力、グラン・エトルアリアス共和国。

 千年を生きる者達の最期の戦いは、遠い日に人々に預けられた書物の言葉によって決せられようとしていた。



“ここに智慧が必要である。

 思慮ある者は、獣の数字を解き明かせ。

 その数字とは、“人間”を指し示すものである。


 そして、その数字とは666である”



 文章の一部を【ヨハネの黙示録 第1章、及び第13章】より抜粋



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