まゝごとの正装胸に空蝉を

 姪に招待状をもらった。画用紙にクレヨンのつたない文字。「パーティです。ドレスできてください」とある。会場は庭の木陰であるらしい。

 わたしはクローゼットの奥から古い濃紺のワンピースを取り出す。すこしばかりくたびれているけれど、ふんわりとしたシルエットは今日のお呼ばれにふさわしいだろう。

 風で広がるリネンの裾を押さえながら庭を歩いていると、松の幹に蝉の抜け殻をみつけた。

 半透明のきれいな茶色と精巧なつくりに惹かれてそっとつまむ。これを胸に留めようか。ままごとにぴったりの、軽い宝石のブローチとして。

 木陰で鮮烈なオレンジ色の凌霄花のうぜんかずらを髪に挿した姪が手をふっている。空蝉を胸に、わたしはスカートの裾を持ちあげて挨拶をする。

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第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部 夏野けい/笹原千波 @ginkgoBiloba

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