第4話

   

「知っているかい? 黎明期の掃除ロボットは、単なる丸い円盤だったとか。その少し後に持て囃された配膳ロボットも、猫型ロボットと言いながら、ただ配膳ワゴンの上に猫を模した顔がついていただけとか」

「ええ、聞いたことがあります」

「それら全ての役割を担える究極の家電。そんな謳い文句で現在みたいな家事ロボットが普及し始めたのは、23世紀になってからだそうだ」

 一見無関係な話に聞こえるかもしれないが、彼女はきちんとポイントを理解していた。

「でも、あまりに精巧な外見の家事ロボットは考えものですよね。まるで人間みたいに扱ってるうちに、本物の恋人や奥さんって思い込んじゃう……。『俺の嫁』症候群ってやつでしょう? それで田中さん、独身なのに嫁とか愛妻弁当とか言ってたのかあ」


 彼女の言葉に頷きながら、私の視線は、注文カウンターの方へ向いていた。「Aセットです。どうぞ」などの音声を発しながら、女性そっくりのロボットたちが食べ物を人間に渡している。

 カウンターの奥にある厨房で調理しているのも、同じく女性を模したロボットたち。私の目には、どれも同じ外見にしか見えないが……。

 私と同様にロボットたちを眺めながら、隣に座る後輩がふと呟く。

「家事ロボットが嫁扱いなら、それを買い換える時って、田中さんにとっては離婚と再婚になるんですかね?」




(「家電の反乱」完)

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家電の反乱 烏川 ハル @haru_karasugawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ