家電の反乱
烏川 ハル
第1話
正午を告げる鐘の音がスピーカーから流れて、今日も昼休みが始まる。
午前中に予定していた仕事はきちんと済ませたので、いつものようにすっきりした気分で、私は食堂へ向かった。
「Aセットです。どうぞ」
注文カウンターで、指定のランチセットを手渡される。それを持ち運びながら、座る場所を探そうと見回すと……。
ふと視界に入ったのは、同期入社の田中の姿だった。長いテーブルの端の方で、ぽつんと一人で食べている。
部署も違うし、特に親友というほどでもないから、しばらく田中とは話をしていなかった。ちょうどいい機会だろうと思って、彼の隣へ行く。
「よう、田中。久しぶりだな」
「ああ、西川か。うん、まあ元気にやってるよ」
口ではそう言うものの、顔を上げた田中は、明らかに表情が暗い。
「いや、とてもそうは見えないぞ。何かあったのか?」
「たいした話じゃないんだが……」
隣に座ろうとする私をちらりと見てから、食べていたものに視線を戻す。
彼は社食のメニューではなく、手作りっぽい弁当を持ち込んでいた。
大きめの弁当箱の右半分に白いご飯が敷き詰められ、左半分がおかず。既にいくつかは田中の胃の中のようで、残っているのは卵焼きとコロッケ、ブロッコリーとプチトマトだった。
「どうした? その弁当に何か問題あるのか? 私のランチセットより旨そうだぞ」
「ありがとう。そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。一応これ、愛妻弁当だからさ」
田中の顔が少しだけ明るくなる。照れ笑いのようにも苦笑いのようにも見える、そんな笑みを浮かべていた。
彼の「一応これ、愛妻弁当」という言い方には眉をひそめたくもなるが、私の内心には気づかないまま、田中は言葉を続ける。
「まあ弁当も問題といえば問題なんだが……。とりあえず話の発端は、うちで使ってる家電たちだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます