第2話

   

「家電たち……?」

「ああ、クーラーとか冷蔵庫とか洗濯機とか。それらが一斉に故障し始めたのさ」

 田中の話によると。

 まずクーラーは、温度設定がおかしくなったという。いくら設定し直しても、スイッチを入れるたびに初期設定に戻ってしまう。冷房は28℃、暖房は22℃だ。

「それくらいなら、故障ってほどでもないじゃないか。いちいち再設定するのは面倒だろうけど……」

「さらに、タイマー機能も効いたり効かなかったり。3時間で切れるようにして寝たつもりが、朝起きてもついてることが多くなった」

「それも……。いや、それは電気代の無駄になりそうだな」


 冷蔵庫も温度がおかしくなったという。本来は4℃のはずなのに、温度計を入れて測ってみたら7℃か8℃くらい。

「つまみを『中』から『強』にしても、6℃までしか下がらない。冷蔵庫としては若干役立たずだろ?」

「ああ、でも『若干』って程度だな」

 私は相槌を打ちながら、心の中では「それは本当に故障だろうか?」と疑問も感じていた。詰め込みすぎると冷蔵庫は温度が下がりにくくなるというし、それが原因ではないだろうか。

 しかしその可能性を口に出すより前に、話題は先へ進んでいた。

「洗濯機は温度じゃなく時間だ。残り時間の表示がおかしくなって、洗濯や乾燥にかかる時間がだんだん伸びてる感じ。3時間のはずの洗濯乾燥に、今ではだいたい5時間かかってる」

「それは……。でも、それなら最初から5時間のつもりで使えばいいだけでは?」

「うん、そうやって使ってる。でも『だんだん伸びてる』だからね。いずれは6時間や7時間になりそうだ」


 最初に田中は「クーラーとか冷蔵庫とか洗濯機とか」と言ったが、実際には他の家電も似たような状況だという。

 例えばテレビは右上の隅が映らなくなったり、ラジオは雑音が混じったり。炊飯器は洗濯機と同じパターンで、最初は1時間で炊けたご飯が、今では2時間かかるそうだ。

「いやいや、田中。洗濯に時間かかるのと炊飯は同じじゃないだろう。そんな炊き方だと、米の味が落ちるぞ……」

「そうなのか? 少なくとも俺の舌ではわからんレベルだが……。確かめてみるか?」

 田中は食べかけの弁当をこちらに差し出すが、私はゆっくりと首を横に振って、丁重にお断りする。

 強引に勧められたら嫌なので、半ば話題を切り替える意味で、急いで話を先へ進めた。

「こうして聞いてみると……。故障は故障だけど、どれも致命的じゃない、って様子だな。騙し騙し使うならまだ十分使える、みたいな。一番問題なのはテレビとラジオか?」

「うん。でもテレビもラジオも、しょせん娯楽機器。なくても困らん家電だから、まあその辺りはどうでもいいのさ。家電の反乱の例として、一応挙げただけ」

「家電の反乱か……。なるほど、それだけ一斉に問題起きたら、擬人的に『家電が団結して反乱起こした!』って思いたくもなるか」

 彼に合わせたつもりで軽い笑みを浮かべてから、私は少し真面目に答えてみる。

「まあ現実問題、家電の耐用年数なんて、どれも同じようなものだろう? だから壊れる時は一斉に壊れ出すんじゃないかな」

「うん、それは俺もそう思う。だから多少は仕方ないし、まだ買い換える時期じゃないとも思ってるんだが……。どうやらこの『家電の反乱』のせいで、俺の嫁まで機嫌が悪くなってるんだ。そっちの方が大問題だよ」

 そう言って田中は、頭を抱えるポーズをみせた。

   

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