EP30 縛りプレイとフレイの戦い 3

「エイペスト、私があいつを転ばせるっ!!」


 エイペストの脇を走り抜けたフレイを見て、エイペストは持っていた剣をかなぐり捨てて、必死で追いかける。


「フレイ、待てっ! 敵に近寄るのは危険だっ!」


 声をかけ終わらないうちに、キュクロプスの一つしか無い目が怪しく光を帯び始めた。


 フレイはそれに気づかぬままキュクロプスの足下に狙いを定め、盾を投げ捨ててサーベルを取り出すと、両手でサーベルを構えたままさらに向かっていく。


 そして、まさに攻撃をしようと足下付近に近づいたところで、キュクロプスの目からレーザーのようなものがフレイに向けて発射された。


 急な光に気づいたフレイが上を見上げるが、すでにそのレーザーはフレイの目の前まで迫っていた。

 

 その瞬間、横からの強烈な力でフレイは横に飛ばされた。フレイを追いかけたエイペストが、ギリギリのところでフレイに追いつき、フレイに体当たりをしたのだ。


 そして、倒れながらフレイが見た光景は、レーザーに貫かれるエイペストの姿だった。その場に倒れ込むエイペストは、胸から大量の血を流し、咳き込みながら吐血した。


「い、言っただろ、逃げろって……やっぱ星付きは、甘く見ちゃだめだった、な……」


 息も絶え絶えに、倒れたエイペストがフレイに声をかける。キュクロプスは、目の前の獲物がこれ以上抵抗できないことを理解すると、今度こそ地面に刺さった棍棒を引き抜きにいった。


「エ、エイペスト!! そんな……!」


 フレイは突然のことで、言葉を失っていた。慌ててエイペストの元へ駆け寄るが、エイペストがそれを震える手で制する。


「早く、逃げろ、フレイ……! こんなところで死亡ロストなんかするな……!」


「そんな、エイペストをおいていくなんて、私、できないわっ!」


「まだ、やるべきことがあるだろ……こんなところで、終わらせて良いのか?」


「でも……」


「俺はもうすぐに死亡ロストして、俺の持っていた物も消えてしまうかもしれない……だから、フレイ、これはお前に託すよ……」


 エイペストは、最後の力を振り絞って小袋を取り出すと、それをフレイの手の中へ押し込めた。


 その袋の上に、フレイの大粒の涙がこぼれる。


「……短い間だったけど、一緒に冒険できて、楽しかったよ……フレイ……だから、逃げろ、俺のためにも……!」


「……っ! ううっ、わかった、エイペスト、ごめん、なさい……!!」


 フレイは、受け取った小袋をしまい込み、なんとか立ち上がると、すぐに盾を拾いそのまま来た道へと全速力で逃げだした。キュクロプスは辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていたが、そんなことにも気づかないまま、フレイはただひたすらに走った。


 そして、フレイの背後で、キュクロプスが振り下ろす棍棒の鈍い音が森の中に響き渡った。



 ◆◆◆



 フレイの頭の中で走馬灯のように、エイペストの別れとなった戦闘の記憶が蘇った。

 

「だから、私は……攻撃できないわ……。またあの時と、同じ思いなんか、したくないっ……!!」

 

「その通りさ、フレイ……そうやって耐え続けて、君の仲間だけでも逃がせば良いさ……」


 耐えるフレイに、なおも剣による攻撃を続けて加えるシェイプシフター。その顔はゆがんだ笑みを浮かべている。


「この人の言うとおりだわ……みんな、私の事はいいから、早く逃げて……!」

 

「フレイ君、その敵は君のパートナーじゃない! 偽物の言葉に耳を傾けてはいけないっ!」


「そう、レーゲンの言うとおり、だぜっ……!」


 アルデリアの治療と回復魔法で、意識を取り戻したトールが、倒れ込んだままフレイに全力で声を届けた。


「フレイ、俺達を守ってくれるって、言ったよな」


「……ええ、言ったわ! だって私は、クルセイダー、だもの……」

 

「でもよ……」


 トールは片手をついて体を起こしながら、声を絞り出した。

 

「でっかい盾構えて、じっと守って、はい逃げてくださいって……それでクルセイダーだって言えるのかよ! それでたとえ俺達がこの場から逃げられたとしても、俺は、ぜんっぜん嬉しくないぜ!」


「……!」


「今すぐ盾を投げ捨てて、剣を構えたって、俺は構わない! 今できる最善の手を使って、自分が守りたい奴を守り切ってこそ、クルセイダーなんじゃないのか!?」


 目をぎゅっとつぶり、ギリギリとフレイは奥歯をかみしめる。


「なぁフレイ、俺達を庇って守ってるだけじゃ、このままみんなやられちまうぜ! 今攻撃できるのはフレイしかいないんだ。それに――」


 トールは痛みをこらえてなおもフレイに呼びかけ続ける。その今にも倒れそうになるトールの体を、アルデリアが必死に支える。


「――持ってるんだろ!?」


 トールの言葉に、フレイは大きく目を見開いた。

 

「……な、なにをよっ!?」


「攻撃のスキルを、だよっ!」


 フレイは、そのトールの言葉に、思わず息をのんだ。

 

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