EP6 縛りプレイと縛りのスキル
たいまつの灯りに照らされた少女の顔を、トールもまじまじと見つめ返した。二人の間に、しばらくの沈黙が訪れた。
(なんでこんな小さい子がこんなところにいるんだ? これもNPCなのか?)
そして、システムメッセージのピロリンっ♪という場違いな効果音が、その沈黙をいきなり破った。
画面のパネルに表示されたのは、スキル取得のメッセージだった。
《スキル『運命の絆』を取得しました》
「……『運命の絆』……?」
小さな声で、少女は疑念の声をあげた。そして、少女は自分だけが見えているパネルを確認すると、声にならない声を出し、そのただでさえ丸っこい目を思い切り見開いて、口をぽかんと開けた。
その様子を見たトールは、その少女がプレイヤーキャラクターであることをすぐに理解した。そして自身も、慌ててスキルパネルを確認した。
スキル:運命の絆
このスキルを持つ二人のプレイヤーは、常にお互いの距離を有効範囲内で行動しなければならない。
有効範囲外へ出ようとしたプレイヤーは、ダメージと一定時間行動不能のペナルティを負う。
このスキルはリムーブできない。
有効範囲:10メートル
取得条件:面識のないプレイヤー同士が偶然同じ宝箱やアイテムに触れた際に、低確率で取得できる。
トールはその説明を読んで、一瞬で理解できず、もう一度読んで、そして少女と同じく絶句した。
「な、な、……」
わなわなと体を震わせながら、少女が先に言葉を発した。
「なんなんですの、これはー!?」
トールもまったく同じ感想だった。もっとも、トールの場合は、いきなり未知のスキルの説明に、その内容を完全には理解しきれてはいなかったが。
「な、なぁ、お嬢ちゃん。今、『運命の絆』とかいうスキルを取得したってメッセージが出たんだが、もしかして……」
「……ええ、私も同じスキルを取得しました。それと、なんですかそのお嬢ちゃん、というのは。私は、プリーストとして旅に出た、立派な冒険者なのですよ?」
どう見ても冒険者には見えない
「いや、なんというか、その若干ロリータチックな服で冒険者とか言われても、イメージと違いすぎるというか――」
「っ! こ、この服は、かわいいからこれでいいのですっ!」
少女は顔をぷくーっと膨らませて抗議した。その顔がなんとなくリスっぽさイメージさせて、トールはまた笑ってしまった。
「ま、まぁいいや。それで、さっきのスキルの説明にリムーブがなんとか、って書いてあったが、あれは何だ?」
「はぁ……もしかして、初心者さんですか? このゲームでは、自分にとって必要で無いスキルはリムーブといって、外しておけるのです。そして、この『運命の絆』は、リムーブ不可。つまり……」
「つまり?」
「つ・ま・り、これからずっとこの呪われたスキルをつけたまま、ゲームを続けなければならないってことですわよ!」
「げげっ!? そりゃ迷惑な話だな」
「迷惑なのはこっちの台詞ですっ!」
少女は、はぁ、とため息をついて、再び宝箱に目を移した。
「とにかく、この宝箱を開けてみましょう」
そういって、少女は宝箱の蓋を開けた。トールがたいまつで中を照らすと、そこには一本の飾りのついたナイフが入っていた。その歯は、トールが見る限り、少し特殊な――ゆるやかにカーブを描いているような形状をしていた。
「おお、こりゃ、俺向きの新しい武器っぽいぞ。悪いけど、俺がこれをもらっていくから――」
「ちょっと待ってください!」
少女はトールの言葉を遮って、宝箱の中のナイフをまじまじと見つめた。そして、合点がいったように小さく頷いた。
「やっぱり……。これが手がかりになるんですわ……」
「どうした?」
「このナイフ、私にとってひっじょーに大事なものですの。ですから、ここはひとつ、私に譲ってくださらないかしら?」
「えぇー、なんでだよー。俺が先に見つけたし、第一お嬢ちゃんには装備できないだろ?」
「私は、これを探しに、この遺跡にやってきたんです。それに、武器として使うのでは無く――」
――キィキィ……
少女がそこまで話したところで、宝箱の背後の方から、何やら甲高い声が反響して聞こえてきた。
「……何だ、今の音?」
「おそらく、まだモンスターが潜んでいるんですわ。私もここに来るまで、2体ほど倒してきましたから」
「へぇー! お嬢ちゃん、見かけによらず、強いんだな-」
「むぅーっ! ですから、私はれっきとしたプリーストなのですっ!」
こちらの少女の、何やら変な鳴き声(?)をあげて、抗議をしてきた。ますます小動物っぽい。
「……まぁ、いいですわ。今はあなたが持っていて。まずはこの遺跡を出て、それから話し合いましょう」
そう言って少女は、声の聞こえた方へスタスタと歩いて行ったかと思うと、またすぐに引き返してきた。
「ちょっと、私はたいまつなんて持っていませんの。先を行ってくださいますか!?」
「な、なんだよ、それ。大体、ここまでどうやってきたんだ?」
「私が通ってきた通路には蝋燭があったので。そしてこの部屋に入ったところ、何やら灯りが見えたのでそちらにいったら――こうなったというわけです」
「なるほど。わかったよ、俺がたいまつを持って進むから、ちゃんと着いてくるんだぞ?」
「子供みたいに言わないでくださいっ!」
二人は、宝箱の奥へ歩みを進めた。しばらく進むと、再び通路には蝋燭の明かりが灯りだし、それにつれて、甲高い声も次第に大きくなっていった。
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