EP18 縛りプレイと馬車の旅
激しい戦闘を目の当たりにし、放心状態で馬車の近くに座り込んでいた御者をなんとか立たせ、馬と馬車を無事に取り戻したトールたち一行は、一路王都への道を進んでいた。
「まずは、先ほどの戦闘で消耗した体力を回復させましょう……『キュア』」
アルデリアが回復魔法を唱えると、三人の体に白い光のエフェクトがあらわれ、減っていたHPが回復した。
「サンキュー、アルデリア」
トールの軽い言葉に、じろりとにらみをきかせるアルデリア。
「本当はあなたまで回復させたくはないのですが、一応、先ほどの戦闘では真面目に戦ってくれたようですので、しかたなく回復をしました」
「なんだよー、バッチリ闘ってきたんだし、何を怒ってるんだよー?」
「人の下着を覗くという変態行為がありましたわっ! しかも、先日はシャワーを覗くという愚行も……」
「ちょっと、トールったら、アルデリアのシャワーまで覗いてたの!?」
「違う、どちらも不可抗力だっての! 大体、こんなちんちくりんの奴のを見たってしょうがな……」
「…………」
トールの言葉に、アルデリアはおもむろにロッドを構えてブツブツと言葉を発しはじめた。
「ア、アルデリア、無言で魔法を唱えようとするのはやめてよ! トールも、いい加減にしてよね!」
「へいへい、わかったよ。アルデリア、悪かったって」
アルデリアはがっくりと肩を落としてうなだれた。
「……はぁ、早くこの忌まわしい呪いのスキルをリムーブしたいですわ……」
フレイは大きな盾を自身の脇に置いて、ステータス画面を確認しながら二人に話しかけた。
「ところで、さっきの戦闘で私はレベルが上がったみたいなんだけど、二人はどう?」
「お、確かに、俺もレベルが上がったみたいだ! ……新しいスキルは、『
スキル:
両手に装備した武器で高速で連続攻撃を行う。
スキルレベル:1
消費MP:35
取得条件:スキル『両手武器』を有しており、両手に武器を装備した状態でモンスターと戦闘を行う
「へぇー、なかなか近接攻撃に特化したスキルね。トールが接敵できる場面があれば、重宝しそうかしら」
「あと、ついでに『運命の絆』の範囲がまた広がって、12メートルになったみたいだぞ」
「それはどうでも良い情報なので結構ですっ!」
アルデリアはまだ機嫌を直しておらず、リスのように頬を膨らまして不満げにしていた。
「そういうアルデリアは、何か新しいスキルとか覚えてないのか?」
「ええと……私は『マジック・バリア』を覚えましたわ」
スキル:マジック・バリア
対象者に魔法攻撃のダメージを軽減するバリアを張る。
スキルレベル:1
消費MP:10
「魔法攻撃に対する防御なのね。私が使えるのは物理的な攻撃に対する防御が主だから、これでどちらにも対応できそうね。あ、ちなみに私は新しいスキルは覚えなかったわ」
しばらく各人のステータスなどの確認作業を行い、作業を一番に終えたトールがフレイに話しかけた。
「ところで、フレイは王都には行ったことあるのか?」
「ええ、私は王都のとある冒険者ギルドに登録している冒険者だから。ちょうど、王都からルーウィックに近いところがクエストの目的地で、それでこっちのほうに来ていたのよ。最も、そのクエストの最中、前にも話した私のパートナーがやられてしまったんだけど」
「……悪ぃ」
「いいのよ、別に。クエストを受けて、王都から移動しているときには今回みたいに強力なモンスターもいなかったの。だから、今回の事件のこともあるし、私は何かおかしな事が起きているって確信できたわ」
「そうか、おかしなことねぇ……。俺はこのゲームはじめたばっかりだからよくわからないけど、そもそもまだ発売されてそんなに時間も経ってないのに、そんことって起こるのか?」
トールの問いにアルデリアが答えた。
「ええ、確かに、現実世界では発売から大して時間は経っていませんわ。でも、ゲーム内の時間はかなり加速していますから、それなりに時間経過があるのです」
「なるほどね。じゃあ、このゲームをプレイしっぱなしのプレイヤーは、すでにいろいろなイベントとかこなしていて、それが原因でおかしなことが起きてても不思議じゃないってことか」
「そうなるわね」
「ま、とりあえず俺達は王都に行って、アルデリアの親父さんの件をクリアしないとだな。ちなみに、ルーウィックから王都まで3日ほどはかかるって聞いてたんだけど、やっぱりそれぐらいかかるのか?」
「ええ、そうね。私は王都から来たことしかないから逆のルートだけど、それでもそれくらいかかったわ。今ウフの街から北上しているから――この後、大きな川にさしかかって、そこを抜けると王都から一番近い宿場町に着くわ。今夜はそこで一晩休むことになるわね」
「川、ですか……。吊り橋でも渡っていくのですか?」
「いいえ、川幅も大きいし、渓谷を抜けるわけでもないから、大きな石でできた橋が架かっていたわよ」
「そこを抜ければ、一休みできそうってことか。ホント、移動中は少しはゆっくりしたいぜー」
「ええ、今度こそ無事に王都に着くことを祈るしかありませんわね」
「……私も、そう願っています……」
荷台の中の会話を聞いていた御者も、切実な顔でひっそりとつぶやいた。トールたち一行を乗せた馬車は北上を続け、石橋までまもなく到着しようとしていた。
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