EP23 縛りプレイと漁師町 2
「もぐもぐ……」
「…………はむっ」
トールはアルデリアが怒って部屋を後にしてから、再びベッドに横になり、体があげる悲鳴に抗うことなく2度目の睡眠を取った。そのおかげか、なんとか歩けるくらいまで体力が回復し。
トールが動けるようになった後、四人は宿の食堂で合流し、遅めの朝食を取っていた。漁師町よろしく、魚を主食材に添えた料理がテーブルに広げられている。
各人のプレートには、白身魚のフライを野菜と共にパンで挟んだサンドイッチが配られ、取れたての魚の切り身を使ったカルパッチョやスープなど、朝食には多すぎるほどの料理が用意されていた。
少し小さめの丸テーブルについた四人だったが、トールとアルデリアは無言で目の前のサンドイッチをほおばっていた。
トールの左隣に座ったフレイが、肘打ちしながら小声でトールに話しかける。
「ねぇ、なんであなたたち無言で食べてるわけ?」
「いや、今朝ちょっとトラブルがあってな……」
「トラブル?」
「ああ、実は……」
トールは咀嚼していたサンドイッチを一旦飲み込むと、フレイを真剣なまなざしで見つめて静かに言った。
「アルデリアが俺の着替えを覗いたんだ」
「ぶぷぅーーっ!!」
アルデリアが口に含んでいたサンドイッチの一部を盛大に吹き出した。
「うわっ、きったねぇな、アルデリア!」
あわててナプキンで口を拭ったアルデリアが、頬を膨らませて抗議する。
「嘘をつくのも大概にしてくださいっ! 覗いたのはトールさんですっ」
「ちょっと、あなたまた覗いたの!?」
あきれた口調でフレイが問いただす。
「違うって! ちょっとしたアメリカンジョークだよっ!」
「君のそのジョーク、まったくアメリカンっぽさが感じられませんが」
「大体、かぼちゃパンツを見せてきたのはアルデリアだろー」
「見せてなんていませんわっ! この変態束縛男!」
「なにーっ! 変態ではあっても、束縛なんかしてないぜ!」
「変態なのは否定しないのね……」
「ふふっ、愉快なパーティさんだね」
「パーティなんか組んでいませんっ!!」
アルデリアが、今度はにこやかに笑みを浮かべる長身の男に食ってかかる。
「で、嫌に自然になじんでるから突っ込めなかったが、お前はどこのだれなんだ?」
トールも同じように、一緒のテーブルで優雅に食事をする男に向かって疑問を投げかけた。
「これは失敬。先日もスリリングなバトルの最中だったから自己紹介が遅れたね。僕の名前はレーゲン。一応、このゲームの発売日からプレイしている、古参のプレイヤーと言ったところかな」
そう言うと、レーゲンは一度ナプキンで口元と手を拭いて、おもむろに立ち上がった。そして腰の両脇に装着しているホルスターから、二丁の銃を取り出した。
「戦闘の時に見てわかったかもしれないが、この通り僕はガンナーをやっている」
レーゲンは両手に持った銃をくるくると回転させて見せた。
「二丁拳銃で一気に攻撃をするのが僕の得意なスタイルなんだけど、もう一つ、属性攻撃で敵に合わせて一番有効な攻撃を与えるのも、ソロプレイで生きていくために活用しているんだ」
「属性攻撃……そうか、この間の白い光の球みたいなやつか」
トールは、デュラハンとの戦いの終盤で、レーゲンから攻撃に対する属性を付与されていた。
「あのデュラハンはおそらく黒属性……ということは、その弱点は白属性だろうと踏んで、攻撃をしたら案の定だった。君たちが普通に攻撃してもダメージを与えられなかったのは、デュラハンが白属性以外には耐性があったってことだろう」
「なるほどね。それにしても、相手の弱点がわかるスキルでももっているわけ?」
「いいや、さすがにそんなスキルは持っていないよ。あの戦いの前に、別のクエストでもぐっていたダンジョンが黒属性のモンスターだらけでね。それで、あのモンスターの雰囲気をみて、もしかしたらと思ったのさ」
「本当に助かったよ。俺達だけじゃ全滅してたよな……。レーゲンも王都に向かうところだったのか?」
「そう、僕はちょうどあの崩れた石橋の近くのダンジョンでクエストをこなしたところで、王都に戻る途中だった。そうしたら、石橋で何やら怪しい動きをしている人たちが見えたから、様子をうかがっていたのさ」
「怪しい動き……確かに、
「それにしても、僕もまさか、馬車がモンスターに変わってしまうとは、想像もできなかったけどね」
「ああ、馬車のおっちゃんも、モンスターに変えられちまったんだよな……」
「いくらゲームのNPCだからって、ルーウィックからずっと一緒でしたから、悲しい気持ちになりますわね……」
「ホント、橋にNPCへの罠があるなんてね、ちょっと想像がつかないわ」
「ふぅん……」
レーゲンはアルデリアとフレイの会話に少し眉をつり上げたが、軽く首を振ってスープを手に取った。
「それじゃ、この豪勢な朝食をいただいたら、みんなでレベルアップといこうか。星付きを倒したんだから、さすがにレベルアップしているだろうし――」
「待ってください!」
アルデリアがレーゲンの話を遮って、ビシッと右手を挙げた。
「うん? どうしたんだい、お嬢さん?」
「その、デザートが来ていないようですので、お願いしても良いでしょうか?」
「え、ええ、もちろん、どうぞ……」
レーゲンはアルデリアの食べっぷりに少し引き気味になりつつ、自身のスープに再度手を付けた。
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