EP27 縛りプレイと神殿への山道 2
「なぁ、俺、この立て札の謎がわかった気がするぜ!」
トールは勢いよく飛び起きて、考えあぐねている風の三人に向かって言った。
「今まさにうたた寝しようとしていた人が、いきなりどうしたんですの?」
いぶかしげな目でアルデリアはトールを見かえした。
「レーゲンの言ってた事がヒントになったかもしれない。『幻視の罠』ってやつ」
「……つまり、どういうこと?」
「俺達は幻を見せられているんだから、見なきゃいいのさ! つまり、《ここから神殿までは
レーゲンはなるほど、と言ってぽんと膝を打った。
「トール君、確かにそれはあり得るかもしれない。この立て札の文字も、実は消えてしまったのでは無く、見えないようにする、ということを示していたのかもね」
「では、ものは試しですし、やってみましょう」
トール達は再び立て札の先の道を、今度は目をつぶりながら進むことにした。
「道を踏み外すと危険だから、道の内側を意識して進もう」
ゆっくりと、一列になり、一歩一歩足下を確かめながら進んでいった。そうして、少しずつ先へと進んでいくと、アルデリアは不意に足の裏に今までの土とは異なる感触を抱き、目を開けた。
「見てください! 足下が石畳になっていますわ!」
アルデリアの声に他の三人もすぐに目を開けて足下を確認する。四人は立て札の場所からほど遠くない場所にいて、その足下は古びて所々凹凸ができている石畳の上に立っていた。
「お、さっきと違う道になってる……ってことは、罠を抜けたって事か!」
「やるじゃない、トール!」
「素晴らしい発想だったよ」
「……少しは見直しましたわ」
三人からの賛辞に、トールは珍しく照れるような仕草で鼻をかいた。
「へへっ、まぁ、まぐれあたりだけどな」
辺りの木々は先ほどよりも密度も背の高さもより大きくなり、外から差し込んでくる光の量は極端に少なくなった。そのせいか、辺りの気温も少し冷たく感じ、トールは少し身震いした。
「足下だけじゃ無く、なんだか空気の感じまで変わってる気がするな……」
「ええ、道も石畳になっていますし、目的の神殿は近いのだと思いますわ」
「そうね、気を引き締めていきましょう」
「僕も、辺りを警戒しながら、しんがりを行くとするよ。先頭はトール君、まかせたよ」
トール達は、雰囲気を変えた山の様子を警戒し、トールを先頭に一列になって石畳の道を進んだ。
ほどなくして、山頂と思わしき空けた空間が目の前に広がった。すでに周囲の空気ははっきりと寒さが感じられるほどに低下しており、細やかな水蒸気の粒が漂っていた。
霞む景色の向こうに、件の神殿はあった。小さな協会ほどの大きさで、石造りの中に小さなステンドグラスの窓がはめ込まれている。
かつては白く輝いていたであろう外壁の石は、ところどころ崩れ落ち、地面に落ちた石の破片の隙間からは、たくさんの草木が多い茂っていた。
「雰囲気たっぷり……って感じだな。本当にこんなところに町の人が訪れているのかよ……」
さしものトールも、山道を登り切り、この光景を見た瞬間、足を止めた。
「まぁ、町長さんも、廃墟のようなところだとはおっしゃっていましたし……」
「それにしては、不気味すぎない?」
「僕も、ちょっと神聖な場所とはほど遠い空気を感じるね」
四人は少しの間言葉を発せずに、目の前のおどろおどろしい建物を見つめていた。沈黙を破ったのはトールだった。
「ま、今更引き返すわけにもいかないしな。とにかく、あの中に入ってみようぜ」
「待って。もしかしたら中で、例の怪しい人影と急に戦闘になるかもしれないわ。ここは、私が先に行くわね」
フレイが盾を構え、先頭に立った。
「お願いしますわ、フレイさん」
「僕は後方から支援できるように、このまま後ろにつかせてもらうよ」
「俺はすぐに動けるように、フレイのすぐ後ろにいくぜ。アルデリア、あんまり離れるなよな」
「それはこっちのセリフですわっ!」
「二人とも、喧嘩しちゃダメだからねっ!」
フレイは歩きながらちらりと後ろを振り返って、トールとアルデリアに声をかけた。そして、神殿の正面、小さな木製の扉がしっかりと閉じられているのを確認すると、フレイは一度大きく息を吸い込んで、盾を持たない右手でゆっくりと扉を押し開いた。
……ギギィ……
重く、重厚な音を立てながらも、扉はほとんど抵抗なく建物の奥側へと開いた。
建物内は灯りはなく、窓から差し込むわずかな光でほの暗い。換気されているわけでもないのか、空気が重く感じられた。
「一人ずつしか通れなそうね。私が先に入って様子を見るわ」
フレイは中の様子をうかがいながら、建物内へ足を踏み入れた。前に歩いていったところで、フレイの目がうっすらと人影を捉えた。
「誰っ!」
目の前の人影はゆっくりとフレイの方へ歩み寄ってきた。そして――
「う、嘘でしょ……!? あなたが、なんでここに……?」
フレイは震えながらつぶやくと、その場で立ち尽くした。
後を追って建物に入ったトールも、フレイの前に現れた人影を捉えた。町長から聞いたとおり、深いフードをかぶり、その顔は正面にいるフレイにしか見えない。そして、長いローブをまとっていた。
「どうした、フレイ!」
トールがすぐさまフレイのそばまで駆け寄ると、目を見開いて蒼白になった顔がそこにはあった。
「フレイさん!」
「フレイ君、大丈夫か!」
アルデリアとレーゲンもトールの後に続いた。
フレイは盾を支えにして、自身の体から来る震えを止めようと懸命だった。
「あり得ないのよ……エイペストは、あの時私を庇って、死んだのよ……」
「何言ってるんだ、フレイ?」
人影はさらにフレイの方へと歩みを進めた。そして、フードとローブをつかみ取り、後方へと投げ捨てた。
そこにいたのは、黒を基調とした金属製の鎧をまとい、腰に大きな大剣を携えた、剣士とおぼしき男だった。
男ははっきりした声でフレイに話しかけた。
「久しぶりだね、フレイ……」
そう言うと、男は腰の大剣に手を伸ばした。
「君を……迎えに来た……!!」
刹那、男は大剣を引き抜き、大きくフレイに向かって振りかぶった。
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