第5話 一時の欲望に身を任すな
こうして僕は
といっても、大して語れるようなイベントはなかった。せいぜい本屋に寄って漫画を買い、談笑して、ついでにエロ漫画コーナーにも立ち寄って……で、そんな僕の耳を彼女が引っ張って、また笑い合ったってことくらいかな。
まあ、初日だしこんなもんでしょ。いきなりイベント盛り込みまくるラブコメもそうはないと思うので、僕たちはさっさと帰らんと、帰りの電車に乗り込ませていただいた。
夕焼け、揺れる電車、流れゆく景色……。朝の満員っぷりが嘘のように、この車両には人っ子一人いない。さあて……なんでだろうね?
「………………」
彼女はドア前の手摺を掴み、今朝と同じような顔で俯いておられる。……あのぉ、座んない? 席いっぱい空いてるよ?
「……ありがとうございます」
それは走行音で掻き消されそうなほどの小さな声だった。が、僕は何度となく聞いていたので、しっかりと捉える。一言一句違わずね。
【▼何が? ・……今朝のこと?】
おっとここで選択肢ちゃんのご登場だ。片や核心に迫る一言であり、片やすっとぼけ。果たしてどちらが正解なのか……。フッ、せっかくだ。ここは『君』たちにも考えてもらうとしよう。どっちの選択肢がいいのかをね? 伏線は一応、張っておいたつもりだ。さあ、シンキングタイムスタート。
十……
九……
八……
七……
六……
五……
四……
三……
二……
一……
シンキングタイム終了。正解は――
「何が?」
でした。
「え? い、いえ……! 今日誘っていただいたので、嬉しかったなぁと……」
彼女は頬を染めはするものの、その表情はどこか残念そうにも見えた。
「別にそのくらい気にしなくていいよ。せっかく一緒のクラスになれたんだから当たり前のことさ!」
「は、はい……」
それから別れるまで、彼女と会話を交わすことはなかった。ただひたすらノスタルジックな光景を眺め、暇を潰すだけの時間が流れていく。
さて、一件外したかのようなこの選択。でも、これが意外と重要だったりするのだ。では、なぜ僕がこちらを選び、正解だと言ったのか……。それをこれから解説させてもらおうと思う。『君』たちにも暇潰しが必要だろう?
実はこの選択肢……ある意味どちらも正解なのだ。
おっと怒らないでくれよ? ちゃんと理由があるから聞いておくれ。実はこの小里明菜という子はね――痴漢自体は好きなんだ。
いや、この言い方じゃあれだな……。そう! 痴漢プレイが好きなのだ。その行為自体は好き。ハマりだしていると言っても過言じゃない。ただ、見ず知らずの小汚い男にやられるのは流石に嫌らしい。できることなら好きな人にされたいってことなのかな? わかんないけどね。
僕が第2話の冒頭らへんで『よかったねぇ……いや、よかったのかな?』と独白したのは、こういう背景があったからだ。一応これが伏線。こういうのがあった方が面白いかと思ってね。
要するに【▼……今朝のこと?】を選んでしまうと、彼女からこれらの性癖を聞かされてしまうのだ。で、その後はまあ……『早乙女くんにしてほしい』的な流れになってね。一周目の時はそりゃあもう、盛った猫のようにヤっちゃってたよ。毎日毎日、誰も居ない車両でね。
だから正解なのさ。このぐらいの男子なら当然だろう? しかもその先の行為は、この僕に一任されてる。どこまでもしていい……彼女の許す限りね。
だけど、その代償は高くつく。あんまりにもやりすぎると『
誰も居ないはずの、走ってる電車に、何故か
あとはもうチョッキンよ。僕のいきり立った……アレをね。
あんな痛みは二度とごめんだ。男の尊厳も纏めてぶち壊された、強制BADエンディングなんかはね。
だからもう選ばない。できるだけ長生きする。『安定』さ。『安定』……
◆
翌日――
いつもより早く学校に登校した僕は、ボケーっと静かな朝を過ごしていた。それこそみんなが来るまでね。
何ゆえこんな朝早くに来たのか? その理由は……
「あ……おはようございます。早乙女くん」
「おはよう小里さん。今日から授業とかダルいね~」
「え、ええ……。そう、ですね……」
それらしい談笑を持ち掛けるも、彼女はどこか浮かない顔。
まあ、言うまでもなく、また痴漢にでもあったんだろう。可哀想に……。でも、僕は時間をずらした。近くにいたら……助けたくなっちゃうからね。
ただ、助けたところで、残念ながらそれは――『
いくらやっても無駄なんだ。何周も何周も……考えうる手は講じてきたつもりだけど、その上を
だからこそ『安定』が必要なのさ。その『安定』の為なら僕は己の心だって殺せる。そう。『この世界からの脱却』という最善の未来の為だったら、いくらでもね……
メタる彼女と、それをメタる僕。 最十 レイ @boowy1988
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