第4話 そらもう、あとは好感度稼ぐだけよ

 始業式前、SHR――


「あぁ~い、皆さんおはようございまぁ~っす。一年間、君たちの担任を請け負うことになったわたりサブロウです。まあ、適当にやってくから適当によろしくね~」


 と、いつもどーりの適当な挨拶をブチかますは、我らが担任である渡先生。


 ぼっさぼさの黒髪に眠たげな双眸。ズレた丸眼鏡に、よれたブラウンのスーツと、いかにも頼りなさげだが、何故か人気がある。そんな先生。ま、僕も嫌いじゃないけどね。この世界での良心、その一つなのは間違いないだろう。


「じゃあ、この後の予定は……あぁ、始業式かぁ。で、その後は色々連絡があってアレするから、だいたい午前中でアレする感じかな。いいねぇ~、学生は楽で」


 ファイルを開き、目を落とす渡先生はこの後の段取りを……ってまあ、そんなことは聞かずとも分かるのでスルーだ。兎にも角にも、まずはこの一列目にして一番後ろの席を獲得できた幸運を喜ぶべきだろう。


「まさか隣同士にまでなれるなんて……。ちょっと安心しちゃいました」


 無論、喜んでいたのは僕一人じゃない。言わずもがな、隣でこちらに笑みを向けている小里明菜こさとあきなである。

 正直、もう何度となく聞いたセリフだが、無視はよくないので一応聞き返しておく。「安心?」ってね。


「はい。クラス替えして知ってる人が居なかったらどうしようって緊張してたので……。早乙女くんが居れば、一年間楽しく過ごせそうです」


 か細い声だったが、信頼を寄せられているのは犇々と感じた。ま、頼られるのは悪い気はしない。けど、それでどうこうしてあげられるかどうかは、また別の話。


「うん。僕も安心したよ。小里さんが一緒なら……ノートとか見せてもらえるしね!」

「えぇ~、そっちですかぁ?」


 と、そんなことはおくびにも出さず、互いに笑みを交わす僕たち。


 いやぁ~、青春だなぁ……



「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロコロ――アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハn;;w[n@0[03oje2jqipefu3r3hoo860j/glks/];,f]kdkadjruiwh;f093u43tッッ‼」



 織姫絆桜あの女さえ……居なければね。


 絆桜ほたるは小里明菜より三つ前の席。こちらへと振り向き、瞳孔ガン開きで、狂気じみた笑みを上げている。

 といっても例に漏れず、その奇行は周囲から認識されない。誰かツッコんでやってくれ。ボケっぱなしじゃ、可哀想だろう?



 さて、始業式という名の校長演説会は……当然カットだ。その後は教室に戻って渡先生からの適当連絡を、これまた適当に聞き流し、本日の予定は終了。


 さあ、帰って昼寝でもするかな……。などと呑気に席を立ち、鞄を肩にかけたところで――


「あ、あの……! 早乙女、くん……」


 隣立つ小里明菜が俯きつつ、僕に話しかけてきた。


「ん? どうしたの? 小里さん」


 一応、返してはおく。知らない体でね。


「えっと……そのぉ……」


 モジモジモジモジ……定まらぬ視線と染まる頬。そんなタイミングで出てくるのは、


【▼一緒に帰る ・一人で帰る】


 毎度お馴染み、選択肢ちゃんである。


 ルートが確定したとはいえ、選択肢はこうして毎回出てくる。それは偏にエンディングが三つくらいあるからだ。といっても、全部BADエンディングだけどね。そんな中にも一応、マシなのとヤバいのがある。今回は……いや、今回もか。


「一緒に帰る?」


 当然、【▼一緒に帰るマシな方】を選ばさせてもらう。


「え? ……いいんですか?」


 彼女はもうそれはそれは驚いたように顔を上げ、そして目を見開いてみせた。


 大方……というか確実に、今朝の痴漢で心細くなっているのだろう。まあ、無理もない。


「うん! 登校の時も一緒だったんだし、帰りも一緒じゃないと筋が通らないからね。まあ、小里さんが嫌じゃなければだけど」

「嫌なんてそんな……! 私も早乙女くんと一緒で嬉し――じゃなくて! す、筋が通りませんからね! はい!」


 鞄を握り締めていた手を振り、一層、顔を赤らめる小里明菜。


 うん。何度も見ているとはいえ、いいものはいい。これぞヒロインだよねぇ~。だから、お前も見習えよ? 



「……………………………………………………………………」



 ……絆桜?


 実はさっきから、ずーっと視線は感じてた。突っ立ったまんま、首を九十度に傾げ、まん丸黒目でこちらを見てたから。


「じゃあ、帰ろうか。……あ! 途中で本屋さん寄っていい? 今日、『極道魔人、デスセイヴァー堅木かたぎ』の新刊が発売される日だからさ」

「へ、へえ……なんだかよく分からないですけど、すっごくてんこ盛りなお話なんでしょうね……。わかりました。お付き合いします」


 というわけで、またBGMがお亡くなりにならないうちに、僕は小里明菜と二人して教室を後にする。


「あぁ……そう……。まーた904jfejfikとだぁ……。\/[\uwkdって、l;\mle:ofj;して、amhqi82kdjksal[@:;してあげる……」


 クケケと嗤う絆桜に見送られながら。

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