第3話 下ネタはオールカットの刑に処す

「あれ? あなたは確か……」


 と、朝の挨拶をブチかましたところで、やっとこさ気付いたのか、絆桜ほたるは僕の背に隠れて見えていなかった、小里明菜こさとあきなを覗き込む。


「あ、元C組の小里明菜です……。早乙女くんとは一年の時、クラスメイトでして……」


 当の彼女は絶賛、人見知り警報発令中。決して絆桜が怖いからではない……はず。


「ふ~ん……またコイツ、か……」

「え?」

「……んーん! なんでもない。私は織姫絆桜。これから一年間よろしくね」

「あ……はい! よろしくお願いします!」


 何やら物騒な呟き(メタ発言)が聞こえてきたが、僕も聞こえなかったことにしよう。今は笑みと握手を交わす両者を、へらへらと見届けてればいい。


わたるくんとは幼馴染でさ。小さい頃はよく一緒にお風呂に入ってたりもしたんだよ~?」


 急に語りだしたよ、こいつ……。上から目線でマウント取るな。


「あぁ……早乙女くんから幼馴染さんのことは、よく聞いていました。織姫さんのことだったんですね」

「そ! 一緒に遊んでたりもしたし、バレンタインなんかも毎年渡してた。クリスマスの時は両家揃ってパーティーを催していたし、お正月休みの時も互いの家族みんなで旅行するのが当たり前だった。それからお泊り会もやって、何度となく一つ屋根の下で、寝たこともあるんだよ。――一緒のベットでね。あ、でもそれは小学校の時までか。中学に入ってからは渉くんの方が『恥ずかしい』って言って、一緒に寝てくれなくなっちゃったの。でも、夜中にこっそり部屋に行って、布団に潜り込んでたから安心して。でねでね? その時に気付いたの。渉くんのそのぉ……あそこがさ? 大きく固くなってたの。辛そうだなぁと思って、そこで私はじめて……〇〇って、〇〇えて、〇〇〇あげたの。そしたらf7;oufvj,b/./\oiofxdwauuhopy79;,@l;ljohnpjp[]ivyd6e867iupk@k@]l:puf6r6432eg]@[8yo;kj;l/8t8@8ypok:pk.,mnjhvgcxfzaewerul.k0^\9y93trjfvjkb/h;l;k,.nkbjhds3rwsg.;:@@lmmfwr2wr9o@-o@mokpkhdgmhchsth5ty4:@」


 怖い怖い怖い……! 一気に情報を詰め込むなよ! あることないこと吹き込んじゃってるし! まあ、どうせ……


「え? ごめんなさい……。よく聞き取れなかったんですけど……」


 彼女は認識すらできてないだろうけどさ。


「んーん! なんでもない。ただ、私と渉くんはすっごく仲が良いの。それだけは……覚えておいて」


 ギリギリ……と音を立てていたのは、握手していたその細い手。どこからそんな力が沸いてくるのか、今にも握り潰しそうな勢いである。張り付いた笑みのままな。


「あのっ……織姫さん……! 痛い……っ!」


 こんな扱いを受けたとて、小里明菜は強くは言えない。それが分かっているからこその行動だろう。……なんにせよ、辛そうな彼女をこれ以上放ってはおけない。


「やめろって。小里さんが怖がってるだろう?」


 というわけで、僕が助け舟を……もとい握手していた手をえんがちょしてやることに。


「あ、ごめんなさ~い。渉くんのこととなると、つい熱くなっちゃって。……身体が」


 お陰で穢れが今度は僕の腕の方に。まるでカップルの如く腕を回してきては、そのたわわに実った果実を、蕩けた顔で押し付けてくる。……まあ、貰えるものは貰っとく主義だ。うん。


「おいおい……あれ……」

「えぇ~! 織姫さん……まさかあいつと……⁉」

「なんであんな地味な男と……」


 しかし、その所為で周りの男どもからは、やっかみの視線が。

 毎度のことながら耐え難いものなので、僕は腕に纏わりついていた変態女を振り払うことに。


「くっつくなって。お前みたいな完璧美少女とつるんでたら、変に目立っちゃうだろうが?」

「? 私は全然構わないけど?」


 と、小首を傾げる絆桜のなんと愛らしいこと。普通の男ならイチコロだなぁ。……まあ、僕はキュウジュッコロ以上(物理)されてるけど。


「僕は構うんだよ。お前とくっつくくらいなら、その辺の電柱にでもしがみついてるわ」

「えぇ~? 私は好きだけどなぁ、電柱。特に……渉くんの……」


 視線が僕の下腹部へと移行してるのは、はてさてなんでだろうね? ま、こんなツッコミをしたところで、絆桜の『看板』に傷がつくことはない。何故かこういった下ネタ発言は全て――カットされてしまうのだ。まるでテレビの編集のようにね。誰の耳にも入らない。羨ましい力だ。


「さあ、もうそろそろ教室に入ろう。これ以上、目立ちたくはないしね」


 とはいえ、ストーリー進行の方は僕の力なくして進むことはない。これでも一応、主人公なんでね。


 よって僕がそう促すと、


「うん。行こ……渉くん!」


 絆桜も、


「は、はい……!」


 小里明菜も素直に同意した。



 さあて、やっとこさ始まるぞ。――楽しい楽しい『デスゲーム学校生活』が。

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