第8話 Code(規約)
季節はずれの雪が降る中で少女は卒業証書の入った筒を片手に烏森との記念写真を撮っていた。
「私ね、今度映画の主演をやるの。私達みたいに二人の少女が、人が稀有となった終末の世界で旅をするの」
兄に撮ってもらった写真の私は珍しく微笑んでいた。
「そう。楽しみね」
「うん」
飾るような言葉など無いというのに、彼女は私の顔を見ていた。僅かに涙ぐんだ烏森は私に抱きついた。
「離れ離れになるのは嫌。また一人になってしまう」
耳元で聞こえるその声は先程とは打って変わり細く震えていた。
「人間はいつだって一人だよ。だから、会えたときに安心するし嬉しいのかもしれないよ」
そっか。凪咲は強いね
そう言う彼女は涙を拭った。
「またね。また遊びに行くよ」
「待ってる」
校舎を背に彼女はマネージャーの車へ、私は先に駐車場に行った兄のもとへと分かれた。
雪が桜と共に舞い散る光景は、異常気象であると同時に私達が直面する新時代の日常なのだった。
終わる物語。
始まる物語。
その切り替わりの刹那に私はいる。
[定例告示]
重要監視対象980号と称する少女(諜報局員内定予告者)を本日、4月1日をもって 局員として扱い 980号の呼称と関連する略号を解除する。
・記事・
解除:重要監視対象ー980
告知:紫桜凪咲
ID:東32ーA9
以上
なお、本件は局内コード(規約)に際して記録を禁止及び許可端末以外での閲覧を禁止している。自動消去時期は、発報後48時間。
対象:管理職以上
この物語はいくつかのストーリーを書くに当たって設定された前日譚です。全ては架空であり、物語上の設定です。
cage. 東雲夕凪 @a-yag
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