第2話 cage.(籠鳥)

cage Children.

世代を象徴するように言われるものの中に95年頃から今に至るまでに生まれた者を閉鎖都市内ではこう呼んでいた。


外の世界を知らず、制限されたネットワーク内の情報しか獲られない。そして、その事を特になんとも感じないという事だ。飼われている鳥が外の世界を知らないのと一緒というのが由来だろうか。

この世代以前は抜け穴は勿論のこと親世代による情報によって今よりも野性的・自然的だった。


だが、何にだって例外はある。


禁止された外部ネットとの接続にだって旧回線を利用してTELネットでアクセスできるし、軍施設を経由したアクセスも可能だ。勿論リスクもあるが思ったよりも簡単だ。


一部の例外を除いて。


むしろ、多少の禁止行為に目を瞑る事で本来の目的をカモフラージュしている事に大抵の者は気づいていない。


「研究所や施設のデータにはアクセス出来ないんだよな」


夏の部室。情報処理の全国大会に向けて勉強をする中で休憩中の副部長はそう囁いた。

それに反応するように数名が頷きモニターを睨んだ。

「外部ネットへのアクセスはカモフラージュ。本当は研究所や施設のサーバーを認知させないためのね。その証拠にアクセスは一端、閉鎖都市の電電公社基地局を経由して外部に繋がる。研究所も例外じゃない。だけど、意図的に許可された端末以外はアクセスを弾くようになっているし、記録がされているみたいだから下手すれば...消されるだろうな 物理的に」

だけれどもそこまでするのは何故なのか。好奇心旺盛で刺激に飢えている高校生の私達は考え、それを満たすことに頭をフル回転していた。


「馬鹿を演じるんだ。セキュリティホールを見つけて外部にアクセスしてしまったと報告をして、その間に電電公社にある端末を踏み台がわりになるようにするんだ。上手く行けば、バレずに接続出来るし情報にアクセスできる」


そうして実際に私達は演じた。


上手くいった


おかしなくらいに


「素晴らしいですなぁ おたくのお子様たちは!」

数日して軍官僚の一人が来て校長室で私達にそう言って激励した。


冷や汗をかく校長の横で部長と副部長は笑顔でいた。


結局のところ研究所には突破不可に近いファイアウォールがあり、文字化けや破損したデータばかりで映画や小説のような展開にはならなかった。


それでも多くあるデータの中から、私は自身の名前が書かれたファイルを見つけた。持っていたメモリーディスクに保存した。


私が過去に受けていた実験に関するものなのだろうか。


校長が教頭に呼ばれ離席すると、官僚の男が半笑いでこう言った。

「ガキども調子乗るなよ」


張り詰めた空気の中で、男は私に目を合わせる


「紫桜凪咲 お前は特にだ。自由など無いと知っているはずだ。両親からも聞いているのではないか?」


「いいえ。両親は私を実験に利用して、結果失敗したという事しか聞かされていません」


鼻で笑い男はぼやいた


「あいつらしいな まぁいい。今回君たちを不問にしたのは君たちの能力を買ってだ。実際のところ、アクセスされたのは監視ネットですぐ反応したから分かったのだがそれ以外の証拠が無いのだ。報告では踏み台攻撃だと言われたが、その踏み台へも50以上のルートでアクセスされており特定は困難だ。それほどの技術があるのなら活かさない手はない。」


今回は見逃してやる。好奇心は若者の特権であるからな


そう言って部屋を出てゆく男は後ろ姿でもわかるくらいに気味悪く微笑んでいた。

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