第4話 ここが一つの分岐点
「オオオオオオオオ!!!!!!」
雄叫びをあげ、男は大剣を振りかぶる。
「Orrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!」
強烈な一撃を叩き込まれた蟹型モンスター【エンペルクレイ】がその場に崩れ落ちる。
その頭部に浮かぶアイコンから、モンスターが
すかさず僕は予想していた地点に目掛け必殺技を叩き込む。
「喰らえ……っ!」
弓使いの必殺技の一つ【決別の
チャージの最中は体力が減少し、減った分だけ弓矢の一撃の攻撃力を上昇させる技だ。
放たれた矢は見事にモンスターの頭部に炸裂した。しかし
「っ……!?」
その時、モンスターが後方に大きくのけぞった。
たぶん僕の放った一撃がタイミング悪く頭部の部位破壊を引き起こしてしまったのだろう。その結果、YUNIさんの放った必殺技【極み斬り】が大きく外れてしまった。そして
「Orrrrr……Orrrrrr……OOOOOOO!!!!」
「ふ……っ」
YUNIさんは1つ目の鋏を難なく回避し、敵に背を向けたままその場で静止する。
そして2つ目の鋏が再びYUNIさんに迫った。
「ハァ……ッ!!」
それは一瞬の出来事だった。
先ほどまでYUNIさんに襲いかかろうとしていたモンスターは地面に倒れ、画面にクエスト完了の文字が浮かぶ。
「な……何が起きた……?」
目の前で起きた現象が理解できず、僕は思わず呟いてしまう。
YUNI『いやー、ヒヤヒヤしましたが(^◇^;)』
YUNI『無事勝てましたね((o(^∇^)o))』
一方こちらは余裕のコメントである。
YUNIさんは無事、とか謙遜じみたことを言っているけれど、あれはこれ以上の修羅場を幾度も潜っている人間の動きだった。もはやプロハンと呼ばれるそれだ。
KUON『流石っすね」
KUON『まさかあの攻撃を凌ぐなんて』
KUON『どうやったんです?』
YUNI『予想してた攻撃のタイミングにカウンター決めただけですよ( ^∀^)』
んな馬鹿なと思ったが、僕はコントローラーを操作し、ソフトではなくゲーム機本体のメニューを表示する。
そこにはついさっきまでのゲームプレイを録画したデータが存在していた。
僕はこのゲームを始めてから、基本的に全てのプレイを録画することにしていた。後で振り返ることで自身の弱点や癖を見つけて今後のプレイに活かすためである。
ここまでやっているプレイヤーはなかなかいないと思うけれど、僕のような凡人ゲーマーには必要なことだ。それにおかげでこうして何度でも見返せる。さてさて……さっきの言葉が本当かどうか見せてもらおうか!!
……うん、マジだね。
映像を再生すると、そこにはYUNIさんの言葉通りの光景が広がっていた。さっきまでは何をしているかもわからなかったけれど、YUNIさんに言われてみて初めてわかる。
あの場面でYUNIさんは蟹の2撃目に対し、即座にカウンターモーションを発動、そのまま敵の攻撃をいなして反撃モーションに突入した。大剣に設定されているこのカウンターは次につながる攻撃の威力を倍増させることができる。その必殺とも言える一撃を、YUNIさんは寸分の狂いもなく敵に叩き込み、残り体力を全損させたのだ。
見事だった。完全に敵の動きを把握し、最適解の判断を瞬時に下している。噂によれば大剣使いは未来が見えると言うけれどあれは本当だったのか……?
初めてYUNIさんも2人でクエストに来てからはや1週間が経ち、今日で3回目のマルチプレイとなる。
YUNIさんの圧倒的な
それは僕らの連携だ。
基本的に遠距離型の僕と近距離型のYUNIさんのプレイスタイルは噛み合っており、連携もそこそことれている自負はある(YUNIさんがどう思っているかはこの際置いておく)。
しかし、先ほどのようにお互いのプレイを損ない、むしろ邪魔になってしまうような行動が実はここ数回のクエストでしばしば起きていた。
マルチプレイである以上、モンスターの行動がソロのそれとは異なってくることはよく理解している……理解してはいるのだけど、何だか僕はそこに物足りなさを感じてしまうのだ。
せっかく協力して狩りをしているのだからお互いの良いところを生かし、最高のプレイがしたいと僕は思う。
何か良い方法は無いだろうか?即効性があって、更に連携を強化するための手段……
「あ」
あった。
もしかしたら他にもっと良い選択肢もあるのかもしれないけれど、今パッと思いつくのはこれしかない。けれど、この方法にはメリットもあればデメリットもある。
……問題はYUNIさんが条件を飲んでくれるかだな。まぁ言うだけならタダだし、提案だけしてみるか。断られたら素直に引き下がればいいだけだし。
KUON『あのYUNIさん』
KUON『今後のことで少し提案があるのですが』
YUNI『何でしょうか??(=^x^=)??』
KUON『YUNIさんが良ければなんですが』
いまにして思えば、この提案がその後の僕らの関係性を決める大きな分岐点だったのかもしれない。
KUON『僕とボイスチャットしませんか?』
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