第2話 気になるあの子と狩りに行く

 つむぎ 久遠くおん

 高校2年生。

 好きなもの、アクションゲーム。

 嫌いなもの、頭を使うゲーム。


 これが僕だ。

 自己紹介が簡潔すぎるかもしれないけれど、残念ながら僕について僕が説明できることはこれくらいしかない。

 どこにでもいるゲーム好きの高校生……これが僕だ。

 そんなことより、僕がずっとハマっているゲームについて紹介したい。

 モンストル・フェスタ、通称モンフェス。

 ……既視感があるって?それはきっと気のせいだ。

 その内容は単純明快。モンスターと戦って、素材を集めて、武器や防具を作って、またモンスターと戦う……その繰り返しだ。

 そんな単純なゲームだけど、積み重ねた開発の歴史によって洗練されたシステム、数々の手強いモンスター、多種多様な武器種などが人気を呼び、モンフェスは全世界で累計販売本数1000万本突破の大人気ゲームとなった。

 例に漏れず僕もこのゲームの虜になった1人だ。一見複雑そうに見えても慣れてしまえば直感的な操作が可能で、やることもただひたすらモンスターを狩ればいいという単純なところに中毒性がある。

 小学生の頃から始めたこのシリーズだけど、ついに高校2年生にして僕にもフレンドができた。

 別に全く友人がいないわけではない(少ないけど)。久村とは別のゲームをすることがあるし、オンライン上に友人がいないわけでもない。みんな趣味が合わなくなって……気づけば僕だけがモンフェスをやりこんでいたというだけ。

 ゲームのシステムを利用した一時的な野良パーティを組んだことはあったけれど、ずっとやろうとは思わなかった。結局のところ、僕は1人で狩りをするのが性に合っていたのかもしれない。

 だからあの時、コワモテのおっさんアバターにピンチを救ってもらい、気づけばフレンド申請を送っていたあの時の自分には驚いた。まさか僕が自分から、それも名も知らぬ相手へフレンド申請をするなんて思ってもみなかったからだ。

 フレンド申請を送ったのもいきなりで、果たして受諾してくれるのかと内心少しドキドキだった。そんな心配とは裏腹に、いともあっさりと許諾され、あれよあれよという間に今日一緒に狩りに行くことが決まってしまった。

 そう、今日僕はガチムチのオッサンと狩りに行く。


 約束の21時になったので、僕はゲームにログインし、待ち合わせのロビーへと向かう。そこには既に例のアバター……筋骨隆々の渋いおっさんがいた。どうやら時間はきっちり守るタイプらしい。僕は早速おっさんに挨拶する。……すると返ってきた返事が


 YUNI『こんにちは^_^』

 YUNI『初めてなので緊張してしまいますね(*≧∀≦*)』

 YUNI『何から狩りに行きましょうか((o(^∇^)o))』


 こんな感じである。

 見た目とテキストのギャップがすごい……フレンド申請の時からそうだったけれど、まだまだ慣れそうにない。頼むからそんな厳つい顔で顔文字とか使わないでくれよ……。


 KUON『そうですね、初めてですし』

 KUON『【アストラム】でも行きますか?』


 【アストラム】はモンフェスでも人気の高いモンスターの一体だ。翼竜タイプの一種で攻撃は強力だが、比較的ギミックは少なく、動きもオーソドックスなものが多いため、互いの実力を測るにはうってつけなモンスターである。個人的には無難なチョイスだとは思うので、あとはYUNIさんの返事待ちだ。


 YUNI『いいですね((o(^∇^)o))」

 YUNI『早速いきましょう(*≧∀≦*)』


 無事に了解も得られたみたいだ。

 こうしてKUONとYUNIさんの初めての狩りが始まった。





 YUNI『2人だとあっという間でしたね♪(v^_^)v』

 YUNI『私はまだまだいけますが(((o(*゚▽゚*)o)))♡』

 YUNI『KUONさんはどうしますか??(´・ω・`)??』


 現在時刻23時30分。

 YUNIさんとの狩りを開始してから4時間以上が経過していた。

 感想を述べさせてもらうならば、YUNIさんはやはり段違い……いや、桁違いに強かった。

 最初の【アストラム】は開始5分で討伐された。

 正直、小手調べにもならず、僕にできたことなんてほとんどなかったと言える。何故なら、開幕から【アストラム】を大剣の一撃により気絶状態に陥れたYUNIさんが、そのままハメ殺してしまったからである。あそこまでモンスターが何もできず、一方的に蹂躙される姿を僕は初めて見たかもしれない。強いとは思っていたけれど、まさかこれほどとは思わなかった。

 このままだとマルチプレイをしている意味もなくなってしまうのでその後、調子に乗った僕らはより難易度の高いモンスターをひたすら狩り続けた。

 実際僕らは相性が良かった。YUNIさんは終始大剣しか使用しない近接スタイル。一方の僕は弓を主体とした遠距離スタイルだ。YUNIさんの圧倒的なプレイスタイルに刺激を受けつつ、何とかついていくので精一杯だったけれど、すごく楽しいひと時となった。


 KUON『すみません……流石に疲れてしまったので、僕はここで失礼しますね』

 KUON『今日はありがとうございました!』


 久々のマルチプレイ、そして長時間の狩りによっていつもとは違う疲れが僕の中に生じていた。本当はもう少し続けたいところだけど、悲しいかな……学生の本分は勉強であり、明日も普通に学校がある。残念だが今日はここまでにしよう。


 YUNI『そうですか……残念ですね(´・ω・`)』

 YUNI『はい!また狩りに行きましょう((o(^∇^)o))』


 YUNIさんも名残惜しく思ってくれることを少し嬉しく思う。僕だけでなく、あちらも楽しんでもらえたなら何よりだ。

 そんな感じで僕とYUNIさんの初めてのゲームプレイは比較的平和に幕を閉じたのだった。




「お知らせ?」


「……そ、溜まりに溜まっちゃってさぁ」


 翌日の放課後、眠いからさっさと帰ろうかなぁと思っていた僕は担任の安藤先生に呼び止められていた。

 曰く、おまえ2年になってから欠席しがちな生徒と家近いからちょっとプリントを届けてきてよってことらしい。

 それ先生の仕事じゃない?って僕は思うのだけど、忙しいから無理らしい。いや、教師なんだからあんたが届けなよ……。


「頼むよ頼むよ〜ていうか紬、学級委員じゃん?これも仕事のうちだと思ってさぁ」


「くじ引きで決まった無責任な学級委員ですけどね……わかりましたよ、行けばいいんでしょう行けば」


 これ以上ごねても絡まれ続けるだけなので、僕は早々に折れることにした。小さな絶望の積み重ねが人を大人にする……ってとある眼鏡の人が言ってたな。この人の近くにいれば、割とすぐに僕は大人になれるんじゃないかと思う。


「じゃあこれよろしく〜」


 そして担任からの軽い言葉とそこそこ重いプリントの束を抱えつつ、この日僕は例の同級生の家へ行くことになった。


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