第15話 牧村楓
「紬くん……あなたは何なの?」
その眼は怒っている。
僕に向けられた視線でその辺の男子なら2、3人くらい殺せてしまうだろう。
にしても僕は随分と牧村に嫌われてしまっているようだ。
正直なんで嫌われているのかわからない。だって僕と牧村の接点なんて、先日の教室での1戦くらいである。それまで何の関わりもなかったあたり、あの時相当心証を悪くしてしまったのだろう。でも、あの時あったことなんて高田ユニについて聞いたことと、僕が足を踏まれたことくらいだ。後者に関しては僕が怒りたいくらいなのに、何でここまで恨まれなければならないのか?
あの時の出来事を思い返すと、何だか僕まで怒りの感情に包まれそうなので、とりあえず忘れることにする。
冷静になれ、紬久遠。ここが正念場だ。
「僕はただ、君と話がしたいだけだ」
「私はあなたと話すことなんてないわ」
「君がそういう態度をとるっていうなら、僕にも考えがある」
「考え?」
「君が話をしてくれるまで、僕は君に付き纏い続ける」
「……馬鹿なのあなた?」
「そうかもしれない。……けど、君にとっても悪い話じゃないはずだ」
「既にこの状況が私にとって最悪なんだけど」
「でも、君は僕の呼び出しに応じたよね?」
「それは……っ」
「君自身、得があると思ったからここに来てくれたんだろう?……もしくは何か後めたいことがあったのか」
「やっぱりあなた……嫌いだわ」
「嫌いで結構。それじゃあ早速教えて欲しいんだけど、君と高田さんはどうして仲違いしちゃったの?」
ここまで散々遠回りをさせられ、いい加減じれったいなと思っていた。だから僕はいきなり核心をついてみた。
「答えたくないわ。……そもそもの話、私と高田さんの仲になぜあなたが介入してくるのかしら?」
「高田さんの不登校の原因が君にあるからだ」
「私に?……ああ、そう。聞き込みの成果かしら?」
やはり僕が高田さんの不登校の理由を調査していることは牧村にバレている。
僕のような地味な生徒なんて見ないような顔をして、しっかり自身のことを嗅ぎ回る輩はマークしていた。……やはり油断できないな。
「僕はそう思っている」
「……そう。ねえ、高田さんが不登校だと紬くんに何か不都合があるのかしら?」
……おや?いつの間にか僕が質問されている。それは当然の疑問なんだけど、何だか嫌な流れだ。
どうにか主導権をこちらへ取り戻す必要がある。
「一応僕は
「あ、学級委員だからって理由は禁止ね。だってそれだけじゃあなたの行動は説明できないもの」
この女……っ!!
今わかったぞ……僕もこの女は嫌いだ。
いいだろう……こうなったら徹底的にやってやる……っ!!
「彼女は僕のフレンドだからだ」
「フレンド……?友達のこと?……そうだったの?私の知る限り、彼女に友人なんていなかったと思うけど」
「去年まではそうだったかもね。でも、最近になって僕らは知り合ったんだ」
「彼女は引きこもっているのにあなたとどうして知り合えるのよ」
「たまたまゲームで知り合ったんだ。……たぶん牧村さんも知っているんじゃないかな?」
「さあ、何だったかしら?」
……ん?今のはちょっと気になるリアクションだ。
高田ユニの友人であるならば、モンフェスを知らないのは少し不自然に思う。
彼女のプレイスタイルは廃人のそれである。
恐らく気の遠くなるような時間とプライベートを注ぎ込んで生まれた圧倒的な実力は、現実世界にも影響を及ぼしていたのは想像に難くない。
そして恵梨さんから聞いた話では、ゲームにハマっているのは引きこもってからではなく、それ以前からだったはずだ。
さて、ここでとある考えが生まれる。
僕は端末を取り出し、先日YUNIさんとプレイした際の録画データを呼び出す。
「ちょっと牧村さん、これ何に見える?」
「いきなり何よ……ただのザリガニじゃない。それがどうかしたの?」
oh……マジか。
まさかこんなに綺麗にハマってくれるとは正直思わなかった。
「君さあ……モンフェスやってるよね?それも結構どっぷりと」
「……は?何を根拠に」
「この解説は君には必要ないと思うけど、一応説明するね?僕がさっき見せたザリガニはモンフェスっていうゲームの【エンペルクレイ】っていうモンスターなんだ」
「だから何よ」
「モンフェスを全く知らない人間のリアクションとしてはおかしいんだ。だって【エンペルクレイ】の見た目はどう見てもカニなんだから」
「……っ」
「初見でこいつをザリガニだって見分けられる人間は恐らくいないと思う。こいつを見てザリガニだって言えるのはあのゲームをそこそこ真剣にプレイしている人間だけだよ」
「ハメたわね……っ!」
いやハメてないよ。
なんなら自白しちゃったよこの人。
「……牧村さんって実は馬鹿なの?こんなんにハマるなんて僕も思ってなかったよ?」
「だからって【エンペルクレイ】を見せるのは卑怯よ!こんなの私じゃなくても騙されるわ!!」
「えぇ……僕は別に騙すつもりもなかったんだけど……それに、高田さんだったら引っ掛からなかったと思うよ」
「……あの子設定とかどうでもよくて、目の前のモンスター討伐することしか考えてないから」
いい感じに壊れてきたな牧村さん。
さっきまで見えないバリアが張られていたような彼女とはまるで別人である。
まさか先日YUNIさんと交わしたちょっとした会話と、普段の録画癖がこんなところで役に立つとは……
いやほんとだよ。
人生何があるかわからないな、ほんとに。
「やっぱり君と高田さんはモンフェス繋がりで仲良くなったんだね」
「……まあ、そうよ。悔しいけどあなたの言う通りだわ」
「牧村さんが勝手に自爆しただけだけどね」
「……ッ!!」
「痛ッ!?ちょっ……何するのさ!?」
こいつ!!また足踏みやがった!!
「うるさい!!誰かに言ったらぶっ殺すから!!」
こっわ……そこまで言う?
牧村にとってモンフェスが好きなことが周りにバレるのってそんなにやばいことなの?
何だかゲームをプレイしている僕や高田さんも否定されたみたいで、少しショックだ。
……ショックだけど、この事実は僕にとって新たな武器になることは間違いない。気は進まないが精々利用させてもらうことにしよう。
「誰にも言わないと約束するよ。……でも、その前に聞かせてはしい」
さて、随分遠回りしてしまったけれど、ようやくここに戻ってこれた。
「君と高田ユニの話を」
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