第四話痛い痛い痛い痛い

戦いの始まりはひときわ大きい鬼が前にゆっくり出てきたところから始まった。

俺は内心さっさと何か行動しろよと焦って吐いても動かない体に苛立ちただ見ていることしかできずにいた。

そして新しく生まれた人格の俺、(実は焦っている間これにシロと名前をつけた。白魔術から産まれたからという安直な名前だが焦っていたから仕方がない。)シロは高笑いしながら左手を掲げた。

もしかしてゲームみたいに石の礫とかこの人格なら出るのかと思いきや相手が鉄の棍棒を振り上げるのをただ待っている。

俺はその間ひたすらパニックだ。

振り下ろされるのをスローモーションのような時の流れに感じながら走馬灯を思い返していた。

そして棍棒が振り下ろされたと思った瞬間、棍棒が消えた。

鬼どもが混乱しているようだが俺も混乱している。

どうやらサーチとアイテムボックスのスキルを使ったようだが何が起きているのかわからない。

わかるのは俺の腕が折れているということ。

めっちゃ痛い。痛みだけは伝わってくる。

だがそんな中でもそれだけで無事、というよりも生き残っていることが不思議だった。

何が起きたんだ!?


「くぁっはっは!イテェ!ほら返してやるよ!」


そう言って鬼でさえ両手でしっかりと持ち重そうに振り上げた鉄の棍棒を小鬼の上に右手から落とした。

当然だが小鬼はぺしゃんこだ。


「おっと、くぁっはっは!ごめんごめん似たような見た目だから間違えちまったよでもちっこいゴミを潰し終わったらちゃんと返してやるよ!カッハー!」


一匹ずつ潰して回りながら当然だが反撃を堂々と食らってまた痛いと笑い武器を奪いながらそれを使って防御または反撃している。

左腕はもうぐちゃぐちゃでアイテムボックスで腕の中に小鬼から奪った刃物を仕込んで防御するなんていう狂ったことをしている。

武器を奪ってやった鬼が素手で殴ってきた時その殴った左腕から刃物が牙を剥いて多少の傷はつけるが俺の方が絶対にダメージがでかい!痛いんだよ!

実際腕が抉れて骨が見えてる上にとんでもない方向に曲がっている。だからやめて!気が狂うよ!

そして数が減り、数体の図体がでかい鬼どもの足に頭に棍棒を落とし続ける。

鬼の目にも涙というが別の意味でというより本当の意味で鬼が泣いている。俺も心の中で泣いている。

何体か逃げ出した鬼もいる。俺は最初から逃げ出したかったよ!

でもようやく戦いは終わった。


「けけけっ随分悪運が強い嬢ちゃんだ。ま、俺の戦利品として連れて帰ってやろう。くぁっはっは!助けたとは思えねぇな我ながら!」


そう言って担ぎ出したがいつになったら人格が切り替わるんだろう。

もしかするとこのまま乗っ取られたままか?

まあいま戻っちまったら激痛でのたうち回るのに忙しくて街に戻れないんだろうな。だって今のたうちまわりたいくらい痛いもん!痛いんだよ!

門の前まで運び終えたと同時に元の俺の人格に切り替わりようやく意識を手放す事が出来ると安堵しかけたがそんな風に意図して意識を手放す事ができるはずもなく泣きながら痛い、痛いと腕に気を使いながらのたうちまわっているとアギトが走ってきた。


「バカが!命を粗末にするやつがあるか!」


俺と獣人の少女にアギトが液体をふりかけた。

すると気持ち悪いくらいの速度で傷が再生した。

獣人の少女の体の欠損まで再生していて毛までフッサフサになっている。

金持ちに限るのかもしれないがこの世界ではハゲにも救いがあるようだ。


「ごめんごめん薬高かったんじゃないか?悪いな。」


そういうと余計に怒り出したがその言葉にこそ俺は驚くこととなった。


「ポーションなんて金がなくても手に入る!錬金術師は国が何人も召抱えているから国からタダでいくらでも支給される!それより命の方が大事だ。それをむざむざ捨てに行くとはなんたる愚行を犯すのだ!」


だとするとそもそもヒーラーでは無双できなかったということか。

そうショックを受けつつもいささか大げさな言いように反論する。


「いやいや死にになんか出向いた覚えはないって。ただ憂さを晴らしたくて町の外に出たんだけど魔物が俺の想定より強かっただけだよ。ポーションがこんなにすごいこともタダで手に入ることも今回の出来事も全て想定の範囲外だったよ。」


「話のすり合わせをしっかりしなかったのはまずかったか。だがこれで分かっただろう。この世界ではとにかく町の外が危険で助け合って生きているとにかく生きるのにみんな必死なんだ。その娘はお前さんと違って本当に命を捨てる気で来たようだがな。そんな人間は俺たちの世界では最も軽蔑されることだ。境遇はある程度同情するがな。」


どうやら随分厳しい世界だ。もしくは優しさが厳しいのか。そこらへんの事情はまだ理解しきれないがなんとなく察する事ができた。

この世界にはああいう鬼のような魔物、もしくはもっと強い魔物がうろうろしていて町の外は非常に危険でまず物流が死んでいるに等しくそれこそ命がけで薬の材料、木材、鉱石、食材その他諸々を手に入れるため町から出て行き持ち帰る。そして守る。そんな世界なのだろう。

そんな世界でさぞポーションは貴重だろうに国はそれを無償で配っている。そこから察するに人類は滅亡の危機というくらい切迫しているのかもしれない。

それはきっと元の世界の少子化問題と比べる事がおかしい話なのだろう。

そんな世界で命を粗末にするというのは相当深刻な事なのだろう。

幾度かそいうことを軽はずみに行った過去がる俺としては恐ろしくて酔っ払えたものじゃないな。

それこそ口が滑ってどんな空気になるか身震いした。

しかしそんな世界でアギトの話が確かならこの子は死のうと町を出た。

俺が思うに元の世界では死にたくなるのに大した理由はいらないが生きるのには何かが必要だった。

でもこの世界ではまだよくわからない。


さて、この子は何を思って死を選んだのだろうか。

俺はこの子の生きる理由を見つけられるだろうか。

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