第十話傷だらけの心は誰かの心を救う

ここは鬼たちが自分たちで作り上げたであろう都市だったみたいだが酷い有様だった。ひたすらに赤、赤、赤で、血でむせかえる臭いだ。

今は人格が戻りいい感じの意思に座ってぼーっと魂が抜けたようなそんな感覚で全力で力を抜ききっていた。

そしてツーっと涙が流れた。今はひたすらに死んでしまいたかった。

痛かったのだ。あの鬼の王とでも表現すべき鬼にした攻撃は俺自身が死ぬかと思った。いやでもわかった。身体操作は無茶苦茶なスキルだ。

身体操作とは血肉、骨、下手したら爪や髪までも自由自在に無茶苦茶に操れるようだ。

つまり今夏の攻撃は体内の針金を血肉の動きだけで無理やりありえない勢いで押し出したというわけだ。

そんなことをして死んでない事実の府がおかしいと俺でも思うがそんな無理さえも無理くり身体操作で押さえ込み今生きていられるという事実を掴み取っていた。

今はただ本当に力が本当に入らない。このまま一生何もしたくないそんな状態だった。

ふと元の世界を思い出した。

そう言えばあいつらは俺がいなくなった後どうしたんだろうか。

あのピンチの時にはいつでも助けてくれたヒーローみたいな親友は。

あのいつでもそばにいて太陽みたいに俺の心を照らしてくれる親友は。

弟に責められて死にたくなった時も、叔父のブラックな会社のせいで親父が死んだ時も、兄弟で殺し合いになって弟と本当にどう接したらいいかわからなくなってしまった時も、何度も死のうとした時も、そのせいで母親が新郎に耐えきれず死んでしまった時も、あいつらはいつでも味方でいてくれた。

きっとあいつらは急にいなくなった俺を心配位してくれているだろう。そしておこっているだろう。

それを思ったら死にたいなんて言ってられない。

あいつらに会えなくてもあいつらに顔を見せられないような俺ではいられない。

だけどやっぱり思う。思ってしまう。

会いたいなって、寂しいなって。


「自分で望んできたくせになぁ。」


思った以上に掠れた声が出た。

立ち上がらなければ、歩き続けなければ。

忘れていたけれどこれはシロナに笑っていて欲しくてしたことなのだから。

だから立ち上がって再び歩き始めなければ。

そしてあいつになんてことない風に笑って言わなければ「ほら、なんてことなかったろ?」って「試練というにはあまりにも楽勝だった。」って「だから俺と生きよう」って。

立ち上がれ。立ち上がらなくちゃ。

だけど力が本当に入らない。指一本動かせない。

身体操作スキルでさえ発動してくれない。

本当は心がもう折れてるんだということがわかっていた。

動かなきゃいけない、見栄を貼らなきゃいけない、そんな思いよりやっぱりもう無理だという絶望感が強くて仕方ない。

どうしようもなく死んでしまいたいと思うけど理性があいつらとの思い出がそれを許す気は無いと、断固とした意識で存在している。

あぁ、酒が飲みたい。ピザが食いたい、パスタが食いたい、ハンバーガーが食いたい、寿司が食いたい、ソフトクリームが食いたい、あぁやっぱりあいつらに会いたい。


「ジン!生きてる!?」


悲痛な叫びのように俺を呼ぶ声が聞こえた。

だが俺は反応できなかった。掠れた声さえでない。声がした方を向くこともできない。

どういうことだかシロナは真っ直ぐにこちらに向かってきた。


「ああ、なんてことだ・・・。ジンそんなにボロボロになって。」


確かに鬼の血を浴びれるだけ浴びた後だから酷い見た目なのは確かだがそんなに傷はないはずだしボロボロという表現はなんだか不思議に思う。

ただそれを表現する気力もなければなんらかのリアクションを返すこともできない。


「ありがとう、ジン!ごめんね!ごめんね!」


シロナが涙声でごめんねと繰り返し俺を抱きしめる。

性的な余裕が湧くような余裕はなかったがただシロナの温もりが心地よかった。

結局男のくせにやせ我慢一つ出来やしないで泣かせてしまった。


「泣くなよ。生きているんだから。生きて帰れるんだから。俺一人だったらきっと無理だったよ。追いかけてくれてありがとなシロナ。」


ようやく言葉が出た。体が動いた。

泣いているシロナの頭を乱暴に撫で回しながら心底安堵した。

そうして俺は意識を手放した。


side:シロナ


酷い魂の損傷だ。

何があったらここまで酷い状態になるのだろう。

どうしてこんなものが見えるのかというと僕の本当のジョブは白巫女という白魔術師より上位のヒーラーで僕のジョブは体の傷だけじゃなく魂の状態も見て癒すことができる。

だけどこのジョブは白神様という災厄の神の巫女でありそんな巫女の特性として災いを、魔物を引き寄せるユニークパッシブスキル誘引というもののせいで忌子として迫害されるべき存在だった。

でも私の周りはみんな優しかった。蔑み追放するどころか憐れみまもってくれた。

明らかに感じるあわれみの感情については居心地が悪かったけどそれに加えてみんなの優しさがただただ辛かった。

僕は何もできないのに誰も責めない。

何もしないで大切な人たちが死んでしまうのを黙ってただ待つしかなかった。

そんな毎日に僕は耐えられなかった。

だから死にに行ったんだ。

だけどそんな僕を勝手に拾って無責任に生きろなんて言う奴に会った。

最初はものすごく腹が立って悔しかっただけだったけどジンの魂が見えてしまって混乱した。

その魂は僕が見たことのない姿だった。

傷を縫い合わせた跡があちこちに見えてその傷からは今も血が流れていてそれでも大きく力強かった。

そんな魂の人間が生きろと行ってくれたのだと思うと自分にいい方に捉えすぎかもしれないけど僕が生きていることで人が生きていく理由になるんだと言う思いが伝わった。

づ捉えればいいか困惑している間に僕の誘引スキルの警告が来た。

こんなのは初めてで僕はただ頭が真っ白になって遠くにひたすら遠くに誰も巻き込まないで死ななきゃとしか考えられなかった。

それからジンはなんてことないって僕を励ましてくれた。

僕はそのおかげで笑えたけど諦めていた。

きっとジンはそんな心を悟ったのだろうあっという間に僕を置いていった。

でもジンの魂の悲鳴は僕の耳に染み込んでしまっていてどんなに差をつけられても見失うことなんてなかった。

僕は全然追いつけなくて途中休み休み向かっていた。

するとひときわ大きい魂の悲鳴が聞こえてきた。

魔物に魂はない。あれは人類に滅びを与えるために魔神が作り出した異形だ。

だからあれはジンの魂の悲鳴なのだといやでも理解した。

耳が痛いほど頭が痛くなるほど強く聞こえると言うのにどんなに走っても遠いことがわかる。

そしてたどり着いた赤一色に染め尽くされた鬼が生活していたであろう鬼達の住処。鬼の軍の本拠地。

そこに今にも消え入りそうにすすり泣く魂の元に走った。

一人で魔神率いる鬼の軍を滅ぼしたであろう現実を目の当たりにしても驚きも喜びも安堵もなくひたすら焦燥と胸を締め付ける辛さだけがあった。

そして見つけた彼は体こそ無事なものの縫い合わせて塞いでいた傷という傷から血を吹き出し新しく大きな傷がパックリと開いていて今にも死んでしまいそうだった。

そんな中恐るべきことに無理矢理に傷口を塞ごうとまた立ち上がろうとしている。

ただひたすらに痛ましかった。

ああこの人には僕がいなきゃダメだ。

そういう風に僕は生きていくための理由を見つけた。

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