第三話お酒が飲みたいです!

「それじゃあ、あなた。ちゃんと話してちょうだいね。どういう状況かわからないのは事実なんだから。」


「そうだな。それをしなければ始まらないな。しかし何から話したものか。」


アギトがようやく話を進める気になったようで子供たちを席に座るよう促した。


「まず、これは神の眼を神から賜った時の話なのだがその時に使命を授かっていてなそれが今回の件と深く関わっている。その使命ってのが簡単に言えば異世界人をうまく導けってことでな。それが世界に良い結果をもたらすらしい。」


さっきのは建前だったのか。てか神の眼ってまじで神からもらったものだったのか。


「とまあここまでが建前だ。神も別にそこまで真剣に導けってわけじゃなかったからな。なんせ俺の邪魔になりそうなら逆に殺してしまっても構わんと言われているからな。その、世界に良い結果をもたらすってのも絶対ってわけじゃないらし。」


怖っ!神様怖いな!俺を読んだの多分神様だよね!?それが適当すぎない?まあ人間なんて十人十色でいろんな奴がいるし何色にも染まるからどんな自体が起こるかわからないのはわかるけど。

もしかして人選も本当にランダムだったりして。


「それで異世界人であるこいつを見つけたんだがこいつ白魔術師のジョブのはずなのに荷物運びしかできなそうなスキルしか持ってなくてな。普通にこのままじゃほっといたら死ぬって思ってな。面倒を見ようと思って連れてきた。」


あぁ、なんかすんませんっす。それとさっきの善意の方が本音だったんすね。なおさら申し訳ない。しかも今の俺が世界に良い結果をもたらすなんて冗談みたいな話ですもんね。ほんとすんません。

だが荷物運びだって立派な仕事だ。それで生きていくのには十分じゃないのか?

そう疑問に思って尋ねてみると呆れたという顔をされた。

どういうことだ?


「確かに荷物運びは立派な仕事だ。だがお前には大量に持ち運ぶ事は出来ても自分の身を守りそれを届けるすべがないだろう。索敵ができても結局それは同じだ。お前の行動範囲は身の安全を考えるならこの王都の中だろうがそうなると仕事はない。王都の中だと金を払ってまで荷物を運んでもらったりしない。そういうのは個人のつながりで済んでしまうからな。」


なるほどそういうものか。現代日本の便利すぎる世界で生きてきた俺はそこまで考えが及ばなかった。

今思えば俺はこの世界のことを何も知らない。憧れから見えていなかったが当然だがここが夢に溢れたラノベの世界というわけではない。ここは俺が想像した世界というわけではないということにちゃんと向き合わなければならない。

最初からその兆しは見えていたがふわふわとしていないでちゃんと地に足をつけてこの世界を生きていかなければ。


「この世界のことを一から全部教えてやるというのは無理だ。だからお前の世界がどんな世界だったか俺たちに話してくれないか?その話からこの世界の違いを説明する方が話が早いだろうし子供達も喜ぶ。」


子供達がいかにもワクワクしているというのがわかる純粋な目で見てくるので元の世界の綺麗に見える面を前面に出して説明した。

当然ながら異世界転生を心から願っていた俺がいた世界はそんな綺麗な世界ではなかったが子供に俺の心の闇を打ち明けて汚すほど俺も子供ではない。

話していて度々しんどくなってしまいその度ケアーをかけて無駄にテンションが高い状態になった。


「おいおい、そんな無理して話さなくても良い!話はこれまでにして部屋に案内しよう。そこで落ち着け。」


この世界と元の世界の違いをすり合わせで調べて行こうという大事なところだったのにどうやら台無しにしてしまったようだ。

仕方ない空気を壊してしまうのは毎度のことだ。

助けを求めることには慣れていない。そのせいで大抵こうなる。

まあ今回は少し違うかもしれないがどうでも良いことだ。


子供達はアギトの言葉にキョトンとした後駄々をこねていたが何かに勘付いた様子の奥さんがとりなした。

そのあとは身の周りを綺麗にしたあと再度落ち着けと諭されて部屋に案内された。

いつものように酒に逃げるわけにもいかずケアーでごまかしながら反省していた。

異世界に行けば誰かの役に立てると思っていた。

でも結局この世界でも俺はモブだった。

元の世界と比べてどっちが良いかなどわかりはしない。

人間関係をリセットできてスッキリした反面、いつも味方でいてくれた両親や友人たちと二度と会えなくなったのかと思うとすごい喪失感だった。

そのことが頭の中をぐるぐると巡り酒に溺れたくてたまらなかった。

これは魔法ではどうにもできない例えケアーで沈んだ気持ちをごまかしても飲みたい気分は収まらなかった。

アギトに町の外に気晴らしに行くことを伝えようとしたがどうやら仕事に戻ってようで無断で家をでた。

それで良いのかと思うが門兵は俺に気づくことなく俺は簡単に町の外に出た。

サーチを使って危険反応が集まっているところに向かいケアーと叫んで踏み込んだ。


『ケアーの過剰使用により使用者の人格が新たに発生いたしました』


「元気いいなぁ、お前らが魔物ってやつかい?見た所うら若き女性をよって囲んで喰っちまおうて算段みたいだが発情期ってわけじゃないんだろう?元気が有り余った結果の過ちってやつかねぇ。」


多分に自分が好きだったキャラクターを意識して作られたであろう人格の俺を第三者の視点で俺は見ていた。

どうやら危険反応が密集していたのはこのボロボロになっている女性を襲っていたようだ。

だが冷静に考えてこの状況は積んでいると言えるだろう。

俺に戦える術などない道中狼やら何やらを倒せたのも勢いと奇跡の結果だ。

こいつらは思うにゴブリンとオーガだろう。もしかしたら小鬼と鬼というべきなのかもしれない。

見るからに鬼って感じだからなコイツら。

それがしかもちゃんと武器持ってるのに対して俺は素手無理っしょ!?

しかもこの女の子獣人ぽいけど耳と腕が片方ずつ食い取られてるし虫の息だ。助からないだろう。

戦う意味もない。勝ち目もない。だが俺は楽しそうだ。

狂ってるのか俺。わからない。もしかしたら俺に勝機は見えないがコイツには見えてるのか。


「話し合いが成立しないならやっぱり戦争だよなぁ!くぁっはっは!」

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