第五話生きてくれ!
アギト宅にたどり着くまでコンコンと説教された。やれ勝手に抜け出すとは何事かやれ危険な真似をするなやれお前のそれはただの蛮勇だとそれはもうぐちぐちと責められた。
俺は内心アギトの優しさに呆れさえ感じていた。
会ったばかりの人間にここまで心を寄せてくれるのに対して逆に心配になってしまった。
そのせいかつい説教の途中で「俺はお前の方が心配だよ。何か大変なことになる前に相談しろよ。」と言ってしまい「俺の心配ができる余裕ができてからそういうことは言ってくれ!頼むから!」と余計に説教の熱を上げさせてしまった。
アギト宅について改めて思ったが王族の家にしては小さい。
それもこの世界の厳しさが影響しているのかもしれないと思うとどうやら本当にこの世界の人類存続への道が険しいのかがうかがえる。
そしてそれだけ厳しい世界と考えてやっと王族の家が日本家屋の一軒家並みという状況に納得がいくのだから始末が悪い。
そしてこの世界は神槍のアギトというチート主人公みたいな人物がいてもどうにもならない世界でありそんな人物が無双できない世界という事が嫌でもわかる。
「それでさ、アギト。子供達にはなんて説明する気だ?合わせるにも前もって聞いておきたい。」
「そんなもん正直に話すに決まってんだろう。」
まじで?と驚いているうちにアギトの家族が出迎えてくれた。
奥さんも子供達も物凄く心配している様子で俺を伺っている。
「いきなり町の外に行って死にに言ったかと思ったら元の世界だと外に散歩に行けるのが当たり前なくらい平和だった価値観のままのほほんと散歩に行ったんだとよ!」
アギトがいかにも憤懣やるかたないといった様子で説明する。
「いやーこの街に来る途中もそんなに危険なかったから気晴らしに散歩するくらいなんて事ないと楽観視してたんだけどいやーまいったまいった。」
奥さんも子供達もまさに呆気にとられ口をポケーっと開けている。
そんな自分の家族にな?阿呆の極みよな!アギトは憤っていた。
「あなた、それでそのお嬢さんはどうなさったのですか?」
「この小娘はこの阿呆が蛮勇を奮って命がけで魔物から救った命を捨てようとした戯け者だ。その戯けはこの阿呆に任せる。助けた者の責任だ。最後まで面倒を見てやれよ。」
「相当怒ってるな。悪かったよ。もっと気をつけるから許してくれ。」
アギトが何かいう前にシツカちゃんの弟二人大泣きしながら死んじゃやだと足にしがみつきシツカちゃんがジャンプして俺お耳を引っ張って笑顔で説教してくる。どうやら俺の行動は子供達から見ても無知で阿呆だったようだ。
俺は気持ちよさそうに意識を失っている獣人の娘を恨めしくげに目をやってシツカちゃんに「ちゃんと聞いてる?」と、子供に出せる雰囲気と思えないほどの威圧感のある笑みで耳を引っ張られた。
それからまた身の回りを清めてから部屋に放り込まれた。
今回は何分かおきに子供達が覗きにきて俺が大人しくしている様子を確かめると満足そうに頷いて去っていく。それの繰り返しだ。
そうして微笑ましい時を過ごしているとガバッと一緒に放り込まれた獣人の娘が起き上がりばっと辺りを見回して落胆した。
さて、なんと話しかけたものか。
「お目覚めみたいだが調子はどうだいお嬢さん?」
コミュニケーション不足がたたって芝居がかった変な喋り方になってしまった。
獣人の娘はこちらを睨みつけているだけだ。アギトの話から察するに余計な真似をしやがってとかそんなところだろう。
「まあ、これから無責任な事を言うから頭にきたら俺の話を聞いた後に詰るなりなんなりしてくれ。」
そう俺は前置きして話し出した。
「まず、死にたくなる理由なんてのはどこにでも転がってるもんだ。どこにでも転がってるが本人にとって抱えきれないから自分には重すぎるから辛いんだ。だから抱えきれないほど重いならお前にその理由のものは身にあまるものって事だ。だからそんなものは手放せ。見に余るんだから。」
これだけ言ってもかえってこない。やっぱり俺のは抽象的すぎて届かないのだろうか。だが俺は言葉を続けた。
「手放すことも難しいんなら支えてもらえ。この世界は優しいようだし、人間ってのは自分が好きだ。自分を好きなままでいられるように人は誰かの役に立ちたくて仕方ないんだよ。それで感謝なんてされた日には嬉しくって仕方ない。そんな生き物だ。人は誰かのために生きられないし一人で生きて一人で死ぬ。だけど自分のために誰かを幸せにすることを生きる糧にする奴もいるんだよ。」
獣人の娘は涙を浮かべてゆっくり近づき俺の胸倉を掴み強引に揺さぶり吠えた。
「僕のことを何も知らないくせにグダグダ言いやがって!僕にはパッシブスキルの誘引ってのがあるんだよ。頼りたくても巻き込んだら大切な人たちまで危険な目にあうんだ!でも一人じゃレベリングもできない。僕はただの無駄飯くらいだ!だったら死ぬしかないじゃないか!」
ここまで踏み込んだらより深い傷に踏み込む。その必要がある。それをしなければ傷を抉っただけで終わる。それだけは俺が嫌だ。俺は俺のわがままで傷口に踏み込む。それを俺は今強引に縫い塞ごうとしている。
「それをせめた人間がいるのか?俺はお前のことは知らないがこんな風に自分に責任を求める人間にそんな酷い責めを負わせるような奴はいなかったはずだ。いたとしてもそれはお前にとって大切な人間なんかじゃない。なん度も言うが人間は誰かのためには生きられないし、一人で生きて一人で死ぬ。お前のことだけを考えている人間なんていないんだ。お前のことを傷つけた人間はお前に対して何も蔑んでいない。客観的にそうだとおもちゃみたいに正義を振りかざしてるだけだ。世界ってのは誰もが優しさを求めてて優しくしたいと思ってるんだよ死ぬのなんていつでもできるし平等に訪れるんだ!その時まで楽になる方法を考えてる方が合理的だろうが!」
「それまでもがけっていうの!?」
「頼りないかもしれないが俺が一緒にいてやる!味方でいてやる!一緒に逃げてやる!だから今は、生きてくれ!」
「うあああああああああああああ。」
それからはずっと彼女は泣いていた。
わかってくれたのか、それともただ悔しかったのか、それはわからない。
だけど生きて欲しい、そう思った。
そういえば子供達は空気を読んでくれたのかな?
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