跋文、今回の振り返り
────後日、結局あのアパートは取り壊されることになったらしい。理由は分からない。過ぎてしまえば、別にどっちだっていいことだ──既に、あのアパートで起きていた、怪奇的で不明瞭な事件は、僕たちとは一切無関係のもの。それが解決しようが、解明されようが、僕にはもう、どうなったっていいことだった。
隣の芝は青いというわけでは無いけれど。
よそはよそ、うちはうち。
僕が解き明かして、解決するべき不可解は、本質的に、やっぱり別にあるのだから。結局依頼を受けてしまったこと自体が間違いだったというか──。
結局、徒労なのであった。
それで、まあ。
というより、いや、やっぱり。
受けたのは間違いだったかもしれない。
「──それで、アテが若干ニアミスいたしまして……。休み明け、月曜日からなら泊めることが出来る、という方はいらっしゃって、それは本当にありがたいなって思うことなんですけれど、つまり土日の寝所がございませんの」
「僕はもう無関係だ!」
「泊めてくださいません? 途中で放り投げられたこともございますし、ちょっとぐらい罪悪感とか、そういうのを揺さぶれればいいなと思っているのですが」
「雨、泊めてあげよう?」
決定事項になってしまった。やっぱり間違いだった。関われば関わるだけ不幸になるし知れば知るほど死期が近づく!
──何でも、突然のことだったそうで。ある日突然ものすごい地響きがして、何事かと思って窓の外を見ると、隣の部屋が鉄球で砕かれている最中だったらしい。解体についての通告が無かったし補償も無かった、現在被害者組合で訴訟準備中。奇跡的に死者はゼロ名だったらしいけど、それが奇跡になるような解体業者など今すぐ解体されるべきだとか。
それは、そう、同感だ。同情する。
「同情するとは言い残しとくから、するくらいだったら助けてくれよって後で言い遺して心の足しにしてくれないか……!?」
「なんで死ぬみたいな書きですの、死ななかったから家が無いんですのよ。ほんと……最悪ですわ」
文字通り罪悪感を揺さぶろうとしてきている? 別にそれは感じないけど、共感はする。納得感はある。そりゃそう、最悪だ。ただ。
その割に──。
「……でも、実際さぁ。いやもう、彩理が泊めること決定しちゃったから……そっちが意思を覆してくれることを僕は期待するしかできないしそのために誘導してるんだけど、それが無意味なんだとしたら、僕の方の意向として、泊めるのは、いい……」
ただそっちはいいのか? いくら二人暮らしとはいえ、付き合ってるわけでも無い同年代の男の家に泊まり込むとか、女子高生的に一人暮らしより危ない気がするんだけど。意図としてはそんな感じ。で、言うと。
「ええでも、彼女さんと同棲してらっしゃるのに、わざわざそんなことも無くないですか?」
「は」
「え」
「ん?」
「付き合ってないよ」
「ええ?」
頷く彩理。動揺する音菜乃七乃。
「えっ。……あの、付き合ってない高校生の男女が、同棲するのって、え、良いんですの……!?」
「だからそう言ってるだろ」
非常に動揺する音菜乃七乃。なんだその反応は。
「え、え〜……。良いんだ、そういうの……良いんですのね……」
「良くないと思うから泊まるなって言ってるんだ、やめとけよ」
「あなたがそれを言えますの!? って言うか一行矛盾ですわ! 喋りなので厳密には言ですけれど!」
──あー。
ふと。ギャアギャアしている音菜乃を見ていて、ぼんやりと有った、ちょっとの違和感、というか、予感、に、ふと合点がいく。そう、あの、とうに過ぎ去った、笑顔のお面の怪異の事件──なぜ、彼女一人だけは、犯されずに済んでいたのか。
「……憔悴」
「え?」
「いや……」
彼女は──音菜乃七乃という人間は。
笑顔を絶やさない。
どれだけ憔悴しても──頓狂しても、困惑しても。
混迷の中でも。
常に柔らかくて、けれどどこか逞しく、貴く有り続ける。
お嬢様言葉──。
「まあ……けど、良いですわ。ほら、探偵は学生服を着ていても、困っている人がいたら見過ごさず助けると言うでしょう?」
「しない!」
「うん」
「彩理ぃ!!」
──強か、というのは人とにこやかに関わっていくための一つだなと、結論のようなことを思った。
総まとめ──。
つまり、跋文なのだった。
明日見彩理は明日を見ない? そそそそららららら @Ryuon1234
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