【4-24】 正義の勝利
【第4章 登場人物】
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亡国の旧都に駐留する帝国東征軍あらため治安維持軍――彼等は占領した旧ヴァナヘイム領の統治に手を焼いていた。
アルベルト=ミーミル退役大将を反乱分子ごと打ち破ったのは、一昨年5月のことである。
国王・アス=ヴァナヘイム=ヘーニルは、王都の乱戦のなかでいつの間にか落命していた。そのため、代わりが必要になったのである。
第1部【16-11】宮殿陥落
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そこで、帝国軍は、
軍務尚書・ヴァジ=ヴィーザル、
法務相・フォルセティ=グリトニル、
内務大臣・ヴァーリ=エクレフ、
鉄道相・ウジェーヌ=グリスニル
等・旧ヴァナヘイム国の為政者たちを、潜伏先の北方諸都市にて相次いで
昆虫か何かのようにぼろぼろと捕まえられた彼等は、旧都ノーアトゥーンへ引っ立てられた。そのまま「戦争犯罪人」として有罪判決を下される。
裁判官はすべて帝国側の人間であり、弁護人は付かないという一方的なものであった。
帝国法に
「『正義の勝利』セレモニー」に、弁護人はおろか法すら不要なのだ。
軍務省次官・外務省対外政策課長・農務相・ヴァーラス領の姫君が避戦を試みた開戦前、そしてミーミルが戦況を五分に戻し講和をうかがった戦中、ヴィーザル等は帝国との交戦を声高に主張していた。それが有罪の決め手となった。
第1部【5-15】少女の冒険 ⑨ 精神論
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第1部【12-29】四輪車 下
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帝国暦384年6月13日、旧都の中央広場――公衆の面前で死刑が執行された。軍務尚書以下犯罪者たちを、公開での銃殺刑に処すことで、帝国軍による侵略の正当性を国内外にアピールし、ヴァ国領民への綱紀粛正を図ろうとしたのである。
しかし、それでも不徹底さは否めなかった。
反乱分子に担ぎあげられたミーミル退役大将の遺体は、ノーアトゥーン郊外の戦場跡をくまなく探しても見つかっていない。
帝国軍の捜索隊は陥没と隆起をおりなすだけの荒野に、呆然とたたずむほかなかった。砲弾を撃ち込み過ぎだと
ミーミルは砲撃によって四散したものと結論付けられ、捜索は打ち切りになった。
だが、事情はどうあれ、旧都の門前に彼の首を
また、「肥やした私腹に、義弾をもって報われた」とされるケント=クヴァシル軍務次官も、刺客との遭難後、行方が分からなくなって久しい。
第1部【12-32】花びら ③
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これでは、「『正義の勝利』セレモニー」も片手落ちであった。
主戦派が処刑され、冷や水を浴びせられたように静まり返ったヴァナヘイム国領民だったが、一連の裁判ごっこに意義を見出せない者が次第に現れはじめる。
そうした不満は、物価の高騰と同胞への虐待などが相まって、激しやすい民族性に着火していく。
帝国東部方面征討軍がヴァナヘイム国領内に滞在したことで、食糧をはじめ物価が高騰している。
総勢20万、直接戦闘に参加しない後方部隊を含めれば30万近い数になろう。街が1つ丸ごと移動してきたも同義であり、ノーアトゥーンにおける生活必需品が不足するのは必然だった。
それでなくても、国家総力戦を3年以上も続けてしまった小国である。生産力が俄かに戻ろうはずもない。
第1部【15-2】持ちつ持たれつ 下
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ほどなくして帝国は、東部方面征討軍を解散する。
しかし、東征軍を構成してきた帝国貴族将軍は、旧ヴァナヘイム領内各地へ軍勢を率いて散らばった。
戦後の恩賞として配分された所領に赴任したわけでだが、先日までの敵地真っただなかである。とてもではないが軍隊は手放せないようだ。
一方、旧都にも引き続き東征軍の中核が「治安維持軍」としてとどまることになった。さらに新設された弁務官事務所には、東都・ダンダアクから官僚・役人たちが次々と赴任する。
つまり、旧ヴァナヘイム領に滞在する帝国人の数は増える一方だった。
【世界地図】 航跡の舞台 ブレギア国編 第4章追記
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そうしたなか、北の海への艦隊派遣が帝都で決すると、帝国本土からの補給物量が目に見えて細りだした。
働き手をほとんど戦場で失ったヴァナヘイム国に、増産体制などとれるはずもない。旧都や周辺諸都市の物資はさらに目減りした。
食糧不足に人手不足は深刻な事態となっていく。
復員した旧ヴァナヘイム兵は、帝国軍によって強制的に劣悪な環境の労働現場へ送り込まれていった。
寒気厳しい北部山間部での木材切り倒し運搬業、濛々たる粉塵が舞うなかでの工場への石炭運び込み作業、岩盤崩落が相次ぐ南部鉱山での採掘作業……どの現場も相場の10分の1以下の薄給で使役され、動けなくなった旧ヴァ兵はその場に打ち捨てられた。
帝国兵による略奪はそこかしこで見られ、人身取引という鬼畜の所業も白昼堂々と行われた。ヴァナヘイム人は、年齢・性別・健康具合から1人あたり〇〇帝国クランという値が付けられ、出荷されていく。
第1部【15-15】遺言 上
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パン1斤買うのに、紙幣を持ち歩かねばならなくなり、強制労働に駆り出された親族友人たちが次々と音信不通になった。おまけに、隣村で乱取り騒動が起き、村民が連れ去られる。
社会不安が増すとともに、旧ヴァナヘイム人民による穏やかならぬ集会が、亡国領内のそこかしこで開かれはじめた。
それらの集いでは、帝国の掲げる「正義の勝利」に対する不平不満が勇ましく叫ばれた。そして、その舌鋒は、劣悪な労働環境への
つまり、生命の維持に支障をきたしはじめたがゆえに、人々は政治的不満を叫びだしたのだ。
帝国軍をさんざん悩ませた英雄・アルベルト=ミーミルの人気は、どこの集会でも絶大であった。帝国軍が、ミーミルの身柄を確保できていないことは、「『正義の勝利』セレモニー」でも明らかになっている。
ミーミル待望論があちこちで叫ばれ、彼の帰還を願う横断幕が集会の大小問わず翻った。規模の大きな会では、暴発抑止のため、帝国軍が派兵することも相次いでいだ。
そのような状況下、東からブレギアの若造による小癪な火事場泥棒まで加わり、旧ヴァナヘイム国はいよいよ混沌の色合いを強めていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
「『正義の勝利』セレモニー」は逆効果だったな、と思われた方、
旧ヴァナヘイム領がこのような状況下で、アトロン老将はブレギア軍に対処していたのか、と気が付かれた方、
🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
旧ブレギア領民たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「実子のコナリイ 連れ子のアルイル 上」お楽しみに。
「それから、こちらは、お嬢様から……」
「……」
分厚い報告書をめくっていたネムグランの指が止まる。
『アリアク城塞の件に関しては、予定どおりに推移せり』
そこに記されていたわずか2行弱――丸みを帯びた文字を前に、宰相の老眼鏡フレームが朝陽を受けて鈍く光った。
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