【15-15】遺言 上

【第15章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 帝国暦384年3月上旬、ローズル・フルングニルをはじめとするヴァナヘイム軍元幕僚たちのほか、フォルニヨート元対外政策課長等は、再びミーミル元総司令官が軟禁されている湖畔の邸宅に集っていた。


 既に手慣れたもので、この日は立会人不在ながら、フロージ農務大臣までも室内にとどまっている。


 また、驚いたことに、連日紙面を賑わせている元特務兵 射殺事件の当事者、シャルヴィ=グニョーストの姿まであった。額に大きなガーゼを当てている。


 客人用の椅子はもちろん足りず、板間に座りこんでいる者も多く見られる。決して狭くはない邸宅も、やや息苦しさを呈していた。


 本来、このようなは、許されるはずがなかったが、くだんの射殺事件の対応で、ヴァナヘイム国の為政者たちは、ミーミルの監視どころではなくなっているようだ。


【15-14】謝罪と賠償 下

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 内政干渉の糸口をつかもうとする帝国軍の露骨なやり口は、ヴァナヘイム国世論の反発をあおりに煽った。


 だが、征服地における民衆の怨嗟えんさの声など、帝国軍は気に留める様子もない。


 異教徒ならば何をしても許されるという姿勢は、戦前から見受けられたが、帝国軍によるヴァ国民衆への不法行為は、いよいよ歯止めが利かないものとなっている。


 平原諸都市では、略奪がいまだに横行しており、ヨータやフレイなどでは、人身売買のための「生け」や「飼育小屋」まで構えられつつあった。


 王都においても、帝国兵によるヴァ国老人への強盗や、婦人への暴行が白昼堂々繰り広げられているような有様である。



 ところが、帝国軍による国政干渉という後難を恐れ、それら非人道的行為を前にしても、審議会は無言を決め込み、ヴァ軍は見て見ぬふりをするばかりであった。


 もっとも、帝国弁務官事務所により、ヴァ国の行政・司法がその機能を停止させられたため、審議会やヴァ軍としては動きようがないというのも事実であった。


 審議会がヴァナヘイム国の意思決定機関であることは、先に述べたとおりである。


 各省庁代表の高級貴族多数と一部の民衆代議士による合議制の姿勢をとり、内政、外交、軍事等、国策を討議・決断する場である。軍はその実行部隊に過ぎない。


 すなわち、この国の民は為政者たち――この国そのものに見捨てられつつあるのだ。



 とりわけ、帝国軍による旧特務兵の酷使は、常軌じょうきいっするレベルになっている。


 特務兵とは、政争に敗れ収容所へ追いやられたヴァ国の元為政者たちや、帝国からの大量・安価な製品によって、生業なりわいを潰された元労働者たちである。


 無実の罪で自分たちを収容所へ追いやったヴァ国の現為政者や、工業製品によって自分たちの職を奪った帝国に一矢報いるため、彼等は銃剣を手に取った。



 ところが昨年末、王都の降伏によって、帝国との戦いはあっさりと幕を閉じた。


 旧特務兵たちは、恩赦を勝ち取り為政者に挑むこともできず、帝国軍へそれ以上銃弾を送ることもかなわなくなった。


 彼等は、ヴァ軍のなかに居場所を失い、食べるためにあろうことか帝国軍の下につき、給金をいただくほかなくなった。


【15-1】持ちつ持たれつ 上

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 仇敵帝国に足下を見られるのは当然のことだった。薄給で雇われた彼らののなかには、過酷な使役に耐えられず、命を落とす者が続出していた。帝国軍の下を去り、再び路上生活に戻る者も後を絶たない。


 帝国軍にすり潰されるか、路上で朽ち果てるか――旧特務兵たちは二者択一を迫られていく。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


旧特務兵たちの境遇に胸を痛められた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「遺言 中」お楽しみに。


「今回の事件について、審議会は賠償金の支払いに応じるらしい」

発言主である元対外政策課長は、元総司令官を除く全員の視線を集めた。


「我が国のどこにそのような財政的余力が……」


「税率を上げるだけでは足りんから、新たな税もつくり、徴収するつもりらしい。何という名前だったかな……おおそうだ、『救国税』とかいうセンスのかけらも感じられないものだったわ」

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