【15-1】持ちつ持たれつ 上
【第15章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859351793970
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
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「オーい、この医薬品50箱、そっチの倉庫に運んでオケ」
「分かりましたー」
帝国兵通訳からの指示に従って作業に従事する者たちは、軍服をまとっていないばかりか、衣服そのものすら統一されていない。
「……皮肉なものだな」
「ああ、帝国軍はミーミル将軍とともに戦った敵……今度はその下で働くことになるとは」
2人の青年が袖で汗を拭きながら言葉を交わしていた。
「その帝国軍に、俺たちは仕事をもらえているんだ。口を動かしてないで手を動かせ」
青年2人を、中年の男がたしなめる。
「そう言われましてもね……」
「そうそう、1日汗まみれになって働いても、パン1
彼らは数週間前までは、アルベルト=ミーミル大将の下、ケルムト渓谷で帝国軍と戦っていた特務兵であった。
ヴァナヘイム国は、和議という名の降伏を受け入れてからは、帝国からの条件にしたがい、この囚人や失業者からなる兵団を解散した。
同時に、為政機関たる審議会は、帝国弁務官事務所の管理下に組み入れられ、この国に定められた司法や行政は、機能を停止もしくは大幅に制限された。
特務兵は再び「政治犯」に戻ることもできず、国道橋梁や王族墳墓の建設に従事することもできず、無為に日々を過ごすことになった。
そうした暇を持て余す者たちに着目したのは、帝国側であった。
帝国軍は東都・ダンダアクから、はるか北西1,300キロの地――王都・ノーアトゥーンに駐留している。
その数は20万を超えているが、そこへ工兵・馬丁・
おまけに、帝国軍はヴァナヘイム国内務大臣の広大な邸宅を接収し、そこを帝国弁務官事務所として機能させはじめていた。
北方へ逃げ出した内務相・エクレフ邸には、東都・ダンダアクより弁務官職員が続々と到着しつつある。ゆくゆくは数千人規模の組織になる見通しであった。
帝国軍の進駐に、弁務官事務所の設立は、大規模な街がそのまま移動してきたことと同義である。
手狭な王都城壁内では、全軍を収容しきれず、一部は南のトリルハイム城にも分散
それだけの将兵人員を維持するため、東都からの長大な輸送路を走破して、連日王都にはおびただしい数の物資が届く。
それらの各隊への配送や、各隊での荷解きなどを担う人夫が1人でも多く必要だったが、帝国軍は異国の地でその確保に難儀していた。
彼らが駐留しているのは敵地のど真ん中である。不測の事態がいつ起こるとも知れず、そうした雑務に帝国兵を多く割くわけにもいかなかったからだ。
人手不足で悩む帝国軍と、仕事が必要な元特務兵の利害は、一致したのだった。帝国軍属の人夫として、元特務兵は次々と雇われていった。
そしていま、帝国国鳥・鷲の焼印が入った木箱を、青年2人と中年1人の元特務兵が運んでいる。
彼らの左腕に巻かれた腕章は、帝国軍内部で作業をする際の承認証の代わりであり、かつ昼時には賄いビスケットの配給証ともなった。
しかし、両者の蜜月は長くは続かなかった。
元特務兵たちは、物価上昇と給金引下げのダブルパンチに
ヴァナヘイムが国の総力をあげて展開した戦争は、3年近く続いた。その間、多くの働き手を失い、畑は荒れ、牛舎・豚舎は焼き払われた。
実に、この国の食糧生産量は、往時の3割にまで落ち込んでいたのである。
国政審議の場で、食料自給の観点から、農務相・ユングヴィ=フロージが、帝国との戦争終結を声高に叫んでいたことは、記憶に新しい。
【12-28】四輪車 上
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その一方で、帝国軍の進駐により、この国における食糧消費量は日に日に増している。
冷蔵技術が確立されていないこの時代、生鮮食材などは日持ちする根菜等を除き、帝国東岸領からの輸送には頼れなかった。現地調達しか方法がないのだ。
生産が落ち込み消費が膨らんだことで、当然のことながら物価は高騰した。
他方、帝国側は雇い入れた元特務兵たちへの給金を、日に日に落としていった。
荷夫、工夫などの雑役の雇用人数は、とどまるところを知らず、帝国軍の予算が追いつかなくなったためである。
しかし、本音としては、占領した敵国のしかもあぶれ者たちなど、その待遇をどこまでも削ったとしても意に介すことなどない、というところであっただろう。
いつのまにか、彼らの腕章は、古びた布きれになっていた。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
特務兵たちのこの先が心配な方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
特務兵たちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「持ちつ持たれつ 下」お楽しみに。
冷たい
白いため息をついて天井を仰いだ農務相のもとへ、秘書が来客を告げる。
彼が入室を許可すると、ノックのあと壮年の男が1人現れた。
「大臣、お久しぶりです」
「おお、君は――」
思わず、フロージは立ち上がった。
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