【15-2】持ちつ持たれつ 下

【第15章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

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 ――もう少し、作付け面積を上乗せしたかった。

 帝国暦384年2月初旬、農務省3階の大臣執務室では、ユングヴィ=フロージが胡麻塩ごましお頭を掻いていた。


 北風が物悲し気に窓を叩いている。


 窓外の下を行き交う帝国将兵など意に介さず、彼は資料とにらめっこをしていた。書類には、昨秋、各領下の畑に蒔かれた冬小麦の作付け面積と、そこから推測される刈入れの量について記されてあった。


 どうしても小麦の収穫量が足りない。帝国との戦争で農業従事者の多くが失われてしまい、作付け面積は年々減るばかりである。


 一方で、帝国軍の駐留部隊は日に日に増えている。


 これでは、いよいよ紙幣の金額よりもにより、パンを購入する日が始まりそうである。



 冷たい隙間すきま風が室内にも入ってくる。だが、暖炉にくべる薪も底をついていた。


 白いため息をついて天井を仰いだ農務相のもとへ、秘書が来客を告げる。


 彼が入室を許可すると、ノックのあと壮年の男が1人現れた。

「大臣、お久しぶりです」


「おお、君は――」

 思わず、フロージは立ち上がった。



 戸口には、エーギル=フォルニヨートが立っていた。


 数年前、外務省の対外政策課長として、軍務省次官・ケント=クヴァシルや、この農務大臣・ユングヴィ=フロージとともに、帝国との開戦忌避に尽力した男である。


【5-8】少女の冒険 ② 新聞

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「変わりはないかね……うん、少し痩せたな」


「特務兵として戦場に出ておりましたゆえ」


 一人娘はもちろん、家族も息災であることを聞き、フロージは安堵の吐息をもらした。

 

 農務相の秘書がれたのは安物の紅茶だったが、それを片手に両者は積もる話に花が咲いた。


 元・対外政策課長が「特務兵として戦場に出されなければ、炎天下の道路補修工事のために命を落としていた」と述懐すれば、農務相が「クヴァシル君が、特務兵発足のために尽力していた」と切り返した。


 その軍務省次官も、優秀過ぎたがゆえに往来で襲われ、人事不省ふせいの身の上になっている――両者は胸を痛めるのだった。


【12-32】花びら ③

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【13-9】 女城主・レリル=ボーデン 下

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 そして、「2年前、卿の家族を心配して、この部屋を訪れた勇敢な少女がいた」とフロージが打ち明けると、「まさか、ご令嬢が……」と、フォルニヨートは驚いた表情で聞き入っていた。


 フォルニヨート家は、ムンディル家の元・臣下である。主家のご令嬢・ソルは、この元・対外政策課長に師事していた。


【5-4】異国かぶれ ③

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「これから、どうするのかね」


「これといって決まっておりません。古巣の職場へ軽々に戻るわけにもいかないですし。ヴァーラス領の主家は、滅んでしまったようなものですから」


「ならば、ここでわしを手伝ってはくれぬか」

 この国家多難の折、けいのような優秀な者を遊ばせておくわけにはいかん、と農務相は切り出す。


 帝国軍進駐に伴い、農務省管轄下はもちろん、国政審議会の業務は、いよいよ混乱を極めているのだ。


 元・対外政策課長は、最後の一口を飲み干し、カップをソーサーに戻す。


 そして、頭を下げた。喜んでお手伝いさせていただきます、と。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


フォルニヨート父子が元気で良かったと思われた方、

農務大臣と元・対外政策課長のタッグに期待いただける方、

🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


フロージたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「散歩 上」お楽しみに。


「どうして砦まで壊しているんだッ」

「俺たちも雇い主に言われているだけなので……」


ヴァ軍元参謀長・シャツィ=フルングニルが元特務兵を問い質すも、先日まで配下だった者たちは、砦の破却作業に合流すべく、黙々と斜面を登っていく。

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