【15-3】散歩 上

【第15章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 帝国暦384年の2月に入って間もないころのことである。


 ヴァナヘイム軍の元幕僚たち――アルベルト=ミーミルの下で働いていた副司令や参謀等――は、役職をすべて解かれながらも、かろうじて軍籍にとどまっていた。


 しかし、帝国軍との協定によって、ヴァ軍の仕事は、国内の治安維持しか認められておらず、指揮できる兵馬は、往時の10分の1以下に制限されている。


 年が明けても下士官・兵の帰郷や、特務兵の解散などの事務手続きをこなすばかりであった。


 暇を持て余した元幕僚たちは、帝国軍に支配されて息苦しい王都から逃れるように、に繰り出した。



 街道も帝国将兵やその関係者ばかりが行き来している。それらを避けるようにして支道に分け入り、下って行った彼らは、ある作業現場に出くわした。


 関所の解体現場であった。


 王都に最も近いこの第3関堤せきていは、建設が遅れていたこともあり、撤去工事も順調に進んでいる。


【14-19】安逸 4

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 ――活用することなく取り壊すか。

  

 ヴァ軍元副司令官・スカルド=ローズルの胸中には様々な思いが去来し、作業の様子を見ていられなくなった。


 それは、他の者たちも同じであった。彼らは思わず、山の中腹に目線を背ける――すると、そこでも作業員たちは土塁を崩し、堀を埋めているではないか。



「どうして砦まで壊しているんだッ」


「俺たちも雇い主に言われているだけなので……」


 ヴァ軍元参謀長・シャツィ=フルングニルが元特務兵を問い質すも、先日まで配下だった者たちは、砦の破却作業に合流すべく、黙々と斜面を登っていく。


 和議の条件の1つとして、「ケルムト渓谷からノーアトゥーンまでにある関堤の破壊」は、条文に記されていたが、「その周辺の砦まで壊せ」とは、記されていない。


【14-17】安逸 2

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 元幕僚たちは急いで王都に戻り、審議会に問い合わせたが、帝国と関わりたくないヴァ国の為政者たちは、誰も耳を貸そうとはしなかった。


 たまりかねたフルングニルは、作業を中止させるべく、帝国弁務官事務所に直接申し入れをした。だが、

「見間違いではないのか」

と、一蹴されるばかりであった。


 やむなく、ローズルが現場の様子の写真を提出すると、

「手違いだ」

と、さすがに帝国軍の青年少尉は非を認めたものの、それだけだった。


 事態の進展はなかった。催促のため、彼らが弁務官事務所を再訪すると、かの少尉は不在であり他部署へ行けという。


 そこへ向かうと、新たに応対した帝国軍の中年中尉は、

「いずれにせよ、講和を結んだ以上、交戦はもう起こりえないのだから、砦のような代物も不要だろう」

と、取り合おうともしない。



 ローズル・フルングニル等がたらい回しにされている間に、関堤ならびに砦の破却工事は着実に進んでいった。


 さらに、彼らの弁務官事務所への出入りを知ったヴァ国・軍務省は、所属部隊を通じて、厳重注意と始末書の提出まで命じた。


 次に弁務官事務所の門を叩いたら、軍法会議にかける、と。



「帝国め、どさくさに紛れて好き放題やりやがって」


「うちの審議会も本当に情けない。帝国のヤツらに尻尾を振るばかりだ」


 ミーミルの元部下たちは、憤るだけでどうしようもなかった。


 かつて、帝国軍を散々苦しめた彼らは、帝国軍上層部からにらまれ、母国の為政者たちからもうとんじられているのだ。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


関堤と一緒に周辺の砦も壊してしまう――。


【14-26】和議締結 《第13章終》

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帝国(レイス)の老獪ろうかいなやり口に舌を巻かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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ローズルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「散歩 下」お楽しみに。


「このまま帝国に呑み込まれるのを、指をくわえて見ているしかないのか」

「……ミーミル将軍を失ったいま、この国に期待できる人物なんかいないさ」


ローズル等は、寂寥感とともに無力感を共有するばかりであった。

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