【14-19】安逸 4

【第14章 登場人物】

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【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

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 結局、レイス一行は、道中に3度も肝を冷やすことになった。


 ケルムト渓谷から王都ノーアトゥーンまでの間に、3カ所も関堤せきていが確認されたからである。それらはすべて彼らの進路に引っ掛かるようにして、造られようとしていた。


 しかし、3基の石造りの関所は、活用されるどころか、完成を待たずして放置されていた。


 特に、1つ目はほとんど出来上がっており、それが運用されていたら、閉ざされた関門のために進めず、かといって敵兵うごめく渓谷に戻ることもできず、彼らは窮したことだろう。



 関堤の建造は、ヴァナヘイム国軍務省次官・ケント=クヴァシル中将が推し進めていたとトラフは聞いている。


【12-24】売国奴 上

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428118931128



「デスクワークだけだと聞いていたけれど……」

 3つ目の関堤を見上げながら、トラフは敵国の軍務次官に対する認識を改めていた。


 帝国参謀部が集めた情報によるクヴァシル像は、補給・編成・人材登用をはじめとする後方軍政に特化していたとされる。


 しかし、これほど理にかなった関堤配置をやってのけたことから察するに、彼は相当な戦略眼も持ち合わせていたことが分かる。



 それにしても、王都に潜ませていた密偵からの定時報告に、関所の件が漏れていたことは、職務怠慢ではないか――トラフは再び憤りを覚えた。


 しかし、それも一時のことであった。宿主の居ない、冷え冷えとした石垣に手を振れ、彼女は思い直す。


 報告がおざなりになったのは、それだけ軍務次官の始末に密偵たちが手を焼いたことの裏返しなのだと。


 軍務次官は、デスクワークに戦略眼だけでなく、射撃の腕前まで一流であった。


 そんな特殊能力てんこ盛りの彼が、突然通勤に装甲馬車を利用したと思えば、そこへ、本国のお偉方によるヒットマンの投入……さぞや、事態は混沌とし、密偵たちの手には余ったことだろう。


【12-33】花びら ④《第12章終》

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***



「敵に関堤を運用するだけの兵力がなかったのが幸いしたか……」

「先任参謀は、それもお見通しだったということですッ」

 ゴウラのつぶやきをきっかけにして、レクレナが断言する。


「そうなのか……うちのの深謀遠慮は、さすがだな」

さすがなのですぅムフーーー

 先輩少尉からの賛同を受けて、下っ端少尉はしたり顔で鼻息を漏らしてもいる。


 角刈り頭と蜂蜜頭の両少尉は、レイスを全知万能の存在だと思い込む節がある。


 部下たちの会話を背に、トラフはやれやれと1人かぶりを振る。



 そんな彼女の先で、小さなうめき声が発せられていた。


「危ねぇところだった……」


 前方に立つ紅毛の上官が、ノーアトゥーンの街を睨みながら漏らしたものだった。


 肺腑はいふの底にたまった重たい空気も、同時に鼻腔から吐き出されたようだった。肝を冷やした水分が、全身の汗穴から同時に吹き出していることだろう。


「……」

 彼は、自らのつぶやきに返答や相槌あいづちなど求めていないはずだ。背後に立つトラフは、再び木々の先を見つめることにした。


 

 レイスの冷汗は、眼前の大袈裟な城壁などではなく、道中3つの関堤によるものなのだろう。


 彼がなど有していないことを、トラフは知っている。


 そして、ヴァナヘイム国審議会へ突きつけたの条件が、当初はであったことも、彼女は知っていた。


【14-17】安逸 2

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【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


関堤が稼働していたら、歴史が変わっただろうにと思われた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


クヴァシルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「崩落 上」お楽しみに。


「おいおい、彼は『救国の英雄』じゃなかったのかね」

農務大臣の問いかけは、若い官僚たちの冷笑をもって報われた。


「英雄?配下の将軍たちからの積極策をことごとく退けた男のことですか?」

「たった1度敗れただけで、帝国から取り戻した街をすべて放棄し、谷底に逃げ隠れている能無しが、どうかしましたか?」

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