【14-18】安逸 3
【第14章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930
【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625
====================
上官の後背で、キイルタ=トラフ中尉も木々の合間からヴァナヘイム国王都を見つめている。
威容を誇るノーアトゥーンの城壁も、
トラフは、灰色の瞳を自陣に戻す。
上官の脇には、車輪の付いた物影がある。レイス隊がここまで引っ張って来た虎の子――6.5センチ新式野砲の1門であった。他にも複数門にわたり、この林のなか各所に配置されている。
これらは、遠征に先立って大枚をはたいて購入したものであり、操る砲兵たちも熟練者ばかりである。イエロヴェリル平原の各地で火を吹き、平原撤退の折には、ぬかるみからの脱出に上官自らが泥にまみれて
序
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816452221247529836
【8-22】敗走 上
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700427877163177
それらの砲門から繰り出される砲弾は、飛距離に破砕力、それに送弾数においてヴァナヘイム軍の旧式砲とは、比べものにならないはずだ。
王都の守備を担う将兵は、松明やカンテラ片手に城壁の先に目を凝らし、帝国兵を捕捉出来ず、さぞや困惑していることだろう。
彼らが想定しうる野砲の射程とは、レイス隊の虎の子よりも遥かに短かいのだ。トラフたちが拠る郊外の林から、王都城内に届くような代物ではない。
すなわち、旧式砲の射程距離であれば、この林に布陣する意味がなく、そもそも木々をを伐採する必要などない。先刻の苛立ちも的外れなものだったかと、彼女は思い改めた。
【14-17】安逸 2
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16817330653500499179
また、王都城兵らの想定しうる野砲の送弾数――一定時間における射撃回数も、レイス隊のそれより遥かに少なかった。
野砲は狙い通りに弾丸を落とすことは難しい。
西の塔破壊の折、城下に降り注いだ砲弾も相当な数に上った訳で、かつ着弾先の家々をなぎ倒した範囲は、旧砲弾を大きく上回ったはずだ。
そこから彼等が、帝国軍の数を多く見誤ることも、無理からぬことだろう。
砲の性能差による帝国軍の誤認――それもまた、紅毛の先任参謀は織り込み済みだということか。
内心、舌を巻くトラフの背後で、後輩たちは言葉を交わしている。やり取りは、新たな話題――ここまでの道のり――に移っていた。その断片が、彼女の
「にしても、3つも建造が進んでいたとはな……」
「俺、最初に見た時、『終わった』と思ったよ……」
***
暗夜、渓谷の隙間をかいくぐり、敵首都を
彼等の進行を妨げるかのように、積み上げられた石壁は支道を分断していた。防衛戦に特化して造られた関所――
彼等が作り上げた精巧な作戦図のなかに、このような建造物はなかった。
誰もが驚き、そして失望した。
進路を
「こりゃ、詰んだな……」
「詰みですね」
若き参謀2人は、捨て
「……」
後輩たちが肩を落として
ほどなくして、彼女は気が付いた。この建造物に魂は込められていないことに。
どういう訳か、石造りの堤は、途中で建設が放棄されていた。未完成の建造物のなかには、もちろん将兵は籠められていなかった。
一同が、安堵の吐息を漏らしたのは、言うまでもない。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
野砲の性能差によって、自軍を多く見せかける――レイスの知恵に驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
トラフたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「安逸 4」お楽しみに。
部下たちの会話を背に、トラフはやれやれとかぶりを振る。
そんな彼女の先で、小さな
「危ねぇところだった……」
前方に立つ紅毛の上官が、ノーアトゥーンの街を睨みながら漏らしたものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます