【14-17】安逸 2

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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「講和の締結に向けて」――事実上の降伏勧告書が、王都に迫った帝国軍よりヴァナヘイム国・審議会へ突きつけられた。


 そこには、の条件として、7つの要求が記されていた。



 一つ、ケルムト渓谷の将兵すべてに停戦を命じ、撤収させること。


 一つ、ヴァナヘイム領内における帝国軍の駐屯を認めること。


 一つ、ノーアトゥーンにおける帝国弁務官事務所設立を認めること。


 一つ、帝国軍進駐後は、帝国法に準拠し、ヴァナヘイム国内で生じた不法行為は、帝国人が裁くこと。


 一つ、戦犯容疑者として、軍務省次官・ケント=クヴァシルおよび総司令官・アルベルト=ミーミル両名の身柄を帝国軍に引き渡すこと。


 一つ、ケント=クヴァシルが編成した特務兵を解散すること。


 一つ、ケルムト渓谷からノーアトゥーンまでの街道に築かれつつある関堤は、そのすべてを破却すること。




「とんだハッタリだ……」


「自分たちはたったの2,000……」


「王都の兵隊さんが本気できたら、ひとたまりもないですぅ……」


 アシイン=ゴウラ、アレン=カムハル、ニアム=レクレナ――少尉たちは気が気ではなく、上官の背中を一斉に見やった。


 セラ=レイス中佐は、軍用外套コートの腰ひもに手を当てて、仁王立ちしている。


 二〇ふたまる時を過ぎて、城内からの返答がない場合は、宮殿を狙え――そう言い捨てただけで、この紅髪の上官は、屹立きつりつする木々の合間から王都の様子を飽かずに眺めていた。



 この先任参謀によって、電撃的に発案された「ヴァナヘイム国・王都襲撃作戦」は、帝国軍編成の都合のほか時間的な制約もあり、対応・追従できる部隊がなかった。


 帝国軍内において、参謀部を煙たがる空気は依然として拭えていなかったが、それを差し置いても、即応できる者たちがいなかったのだ。


 事実、左翼はネフタン少将麾下の敗北の混乱に追われており、中央と右翼は再建途上にあった。


 一方で、眼前に広がるケルムト渓谷は、東西400キロ以上に及ぶ。そのような長大なエリアを敵の精鋭による神出鬼没な飛び出しに備えねばならず、どの部隊も、担当範囲以上に戦域を広げる余裕などなかったわけである。



 やむなく、レイスたちは、直卒の兵500(レクレナ家・トラフ家・ゴウラ家等の兵馬含む)に、総司令官ズフタフ=アトロン大将から分け与えられた1,500の兵馬を加え、臨時連隊を編成した。


 先任参謀が自ら指揮を執り、死地へ飛び込むことについて、総司令官兼参謀長は難色を示していた。しかし、作戦の有効性を否定できず、参謀部からの強力な要請に押し切られた形となった。



 レイス麾下の帝国軍は、城の南西側に広がる林をうまく利用し散開している。


 ノーアトゥーンの城内からは、木立が邪魔で、帝国側の兵力を視認出来ないはずだ。まさか、たった2,000の兵で脅しをかけているとは思うまい。


 ――それにしても。

 キイルタ=トラフは定位置――セラ=レイスの斜め後方――に立つと、ため息をついた。


 敵国のことながら、この林1つとっても、彼女は呆れざるをえない。


 王都の周辺に、これほどの林や森をそのままにしていることは、寄せ手に「利用してください」と言わんばかりである。


 このノーアトゥーンが、近年敵の侵略を受けたことのない証拠であり、為政者から領民まで、危機感を持ち得ていないことの証左でもあった。


 「救国の英雄」の活躍に胸躍らせ、戦争継続を熱望した民衆――親兄弟を戦いに失っていない大多数の者たち――にとって、戦いはどこか遠い場所の出来事であり、所詮は他人事であったのだろう。



 渓谷に拠って必死の抵抗を試みる最前線の者たちとは、同民族と思えないほどの無神経さ――トラフは、度々唾棄だきしたい気分にさいなまれた。


 だが、彼女たちはその無神経さに救われる形になったことも事実であった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


レイスの大胆不敵な交渉に驚かれた方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「安逸 3」お楽しみに。


「こりゃ、詰んだな……」

「詰みですね」

若き参謀2人は、捨てばちになった。

ゴウラは近くの樹木を拳で叩き、カムハルは背負っていた小銃を投げ捨てた。

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