【14-16】安逸 1

【第14章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927859156113930

【地図】ヴァナヘイム国 (13章修正)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16817330651819936625

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 帝国暦384年1月14日夕刻、正月気分もまだ抜け切れていないヴァナヘイム国王都・ノーアトゥーンに、突然の轟音が響き渡った。


 地響きと爆音の発生源に視線を向けた者たちは、誰もが自らの目を疑う羽目になった。


「と、塔が……」


「に、西の塔がない……」


 城郭都市の東西に並び立つ2対の塔のうち、西側の繊細で優美な姿はそこにはなかった。


 黒煙と土煙を上げて、首から上の部分が崩れ落ちていたのだった。



 王都では、為政者たちから民衆まで上へ下への大騒ぎになった。


 その昔、帝国の駐留を許した折を含めても、ノーアトゥーンが攻撃にさらされたという記録はない。


 その帝国大使館も2年前、アルヴァ=オーズ中将等「憂国の同胞」が襲撃し、大使および駐在武官をことごとく始末している。


【5-18】梟

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「帝国は、渓谷で抑えていたのではなかったか」


「どうして、ここまでの侵入を許した」


「いよいよ味方の防衛線は崩壊したのか」


 「ヴァナヘイム随一の猛将」オーズ中将が帝国軍の圧倒的な火力の前に一敗地にまみれ、「救国の英雄」ミーミル大将は再びケルムト渓谷での穴倉生活に入った――そうした事実は、既にヴァナヘイム国民衆の間にも広まっていた。


 審議会が新聞各紙にいかに圧力をかけようと、それを嘲笑あざわらうかのように情報は漏れ伝わった。


 もっとも、圧力をかけるべき大臣たちが、再び王都を離れ、北方諸都市へ逃げ込みはじめたのを見て、民衆は噂を確信に変えたのだった。


 それでも、ミーミルは谷底に籠るだけではなく、度々外へ打って出ては、局地的な勝利を重ねていたはずだった。新聞屋どもはそれを大々的に報じてきたが、対局的な劣勢は覆しようもなかったということか。



 砲撃を浴びたことで、権力者たちにならうように、下々の者たちもこの王城都市から逃げ出そうとした。


 城下には、老若の女性や傷病を負った男性しか残っていないはずだったが、どこに隠れ住んでいたのか、健常そうな成人男性の姿も多数見られた。


 ヴァーラスをはじめ、再び帝国の手に落ちた諸都市が、どのような末路をたどっているか――彼等はよく心得ている。



 王都・ノーアトゥーンも、他の城塞都市と同じく、街の周囲をぐるりと城壁に囲まれている。城外に脱けるには、各所に穿うがたれた門をくぐらねばならない。

 

 ところが、崩れた塔とは反対側――東の門は、非常時に至り早くも閉じられていた。


「開けてくれ!」

「ここから出して!」

「門番、聞こえてねーのかッ」

 怒号や叫びが、固く閉じられた門扉に次々とぶつけられる。


 この城門が微動だにしないことを悟るや、彼らは別の門へと足を向ける。口伝えの情報では、北東の門はまだ開いているのだという。



 北東の門は、脱出を諦めきれない一部の為政者のために、閉鎖されていなかった。各城門を諦めた領民にとって、脱出を渇望する民衆にとって、門外の光景は目にだったのかもしれない。



 彼らは一斉に、そこへ殺到した。



 いくら王都の城門でも、北東のそれは東西南北の正門に比べ狭小だった。押し寄せた万余の領民を一度に通すことはかなわない。


 きっかけは、老夫婦の転倒だといわれる。


 つまずき転んだ者は別の者に踏まれ、それを踏んで転倒した者もまた別の者に踏まれる。


 

 群衆雪崩が生じてしまったのである。




 城下で大規模な圧死事故が生じていても、王都本廓ほんぐるわに残っていたわずかな数の為政者たちは、それを顧みる余裕などなかった。


「3時間待つ。返答なき場合には、ただちに砲撃を再開する」


 帝国東部方面征討軍より、「講和の締結に向けて」というお題目の降伏勧告書が、ヴァナヘイム国審議会へ突きつけられたからである。


 そこには、の条件として、帝国軍からの7つの要求が記されていた。






【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


【4-13】舌戦 下

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816927860199588503


「塔など真っ先に標的にされる」と、かつてミーミルが指摘したことを思い出された方、🔖や⭐️評価をお願いいたします

👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758


レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「安逸 2」お楽しみに。


「とんだハッタリだ……」

「自分たちはたったの2,000……」

「王都の兵隊さんが本気できたら、ひとたまりもないですぅ……」


アシイン=ゴウラ、アレン=カムハル、ニアム=レクレナ――少尉たちは気が気ではなく、上官の背中を一斉に見やった。

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