【4-13】舌戦 下
【第4章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428756334954
【地図】 航跡 ヴァナヘイム国編
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
====================
「総司令官のおっしゃるとおり、我が軍は戦線維持もままならないほど、追い詰められております」
オーズ中将に続いて、エーミル=ベルマン中将が新任総司令官に挑む。
ミーミルは大きくうなずいて、先を促す。
「いま、我が軍に不足しているものは、何よりも兵力です。食糧弾薬はまだ豊富にあるものの、敗戦に次ぐ敗戦でそれを使うだけの兵士がいない。この状態でどうやって帝国と引き分けまで持ち込もうとされているのか、その胸中をお聞かせ願いたい」
ベルマンは低く冷静な声で、理路整然と言葉を
猪武者のオーズではなく、理知的な彼なら、若造を言い負かしてくれるのではないかと、将官たちの間では俄然期待が高まった。
ベルマン中将は、芸術の街・グラシル周辺を治めてきた領主である。口髭を整えた上品な容姿が物語るように、兵学だけでなく、故事はおろか、音楽・絵画方面にも素養がある。
「国外の社交場に出しても恥ずかしくない人物」として、軍務省の外局・外務省に籍を置いていたこともあり、帝国財界人をして、その
しかし、そのような教養人から挑まれても、新任総司令官は、「なんだ、そんなことか」と言わんばかりに、1つ、2つうなずくと、次のように言い捨てた。
「ここでは詳細は告げられないが、兵力の増強については既に手を打ってある」
室内がたちまちざわめきに包まれる。
「戦力増強の目処が立っているのか」
「予備兵力ももうないと聞いているぞ」
指揮官たちのそうした声が耳に届いているのかいないのか、新司令官は着座したまま、目を
室内にあふれた声に押されるように、ベルマン中将がいぶかしげな表情をうかべ、言葉を続ける。
「まさか、さらなる徴兵を領民に強いるつもりではありますまいな」
「徴兵をしようにも、もうこの国には、老人と子どもしかいない。別途考えがあるから安心いたせ」
ミーミルは、目を閉じたまま身じろぎもせず、己の方針の一端を口にした。
この若い総司令官は、大柄とはいえない。だが、その引き締まった体躯が腕を組む姿は、当人の意志の固さを物語っているようだった。
「総司令部を、ここ王都の西の塔からトリルハイム城塞の地下倉庫に移されるとお聞きしたが」
今度は、エディ=アッペルマン少将が質問内容を転じることで、若い総司令官に挑んだ。
「さよう、そのとおり申した」
ミーミルは、
この総司令官は先の所信表明で、総司令部の場所を王都から最前線のトリルハイム城塞に移すことを宣言している。
総司令部が50キロも後方にあっては、戦況に即時に対応できないという理屈は諸将も理解できる。
しかし、その移転先は、城塞の中核たる
「総司令官殿が、モグラのように地中に潜むなど、将兵の士気が上がるとお思いか」
「先の戦闘における帝国軍の戦法を聞いただろう……」
ミーミルは薄目を開き、腕組みをしたまま続ける。
「……我が軍とともに村1つ地図上から消すようなやり方を」
「だ、だからこそ、総司令官殿は、我らとともに前線にあって欲しいものです」
アッペルマンは、自らを振るい立たせるようにつぶやいたが、新司令官の耳には精神論など届いていないようだった。
「帝国は、ヴィムル河流域会戦の勢いで攻めかかって来るぞ。そうしたら、こんな建物など、真っ先に野砲の標的にされ、半時ともたずに崩落することだろう」
「……」
「ふん、臆病風に吹かれおって」
「まったく、モノは言いようだな」
アッペルマンは押し黙ったが、後列の将軍たちは口々に小声でミーミルを
天にそびえる壮麗な城塔など、時代遅れの産物になりつつある。
だが、脇役に過ぎなかった砲兵が主役に
「……」
「……」
「……」
質問は途絶えた。
新総司令官の方針に誰もが不満の色を浮かべていたものの、これ以上、彼を問いただす者は出て来なかった。
【作者からのお願い】
この先も「航跡」は続いていきます。
新任司令官ミーミル、頑張ったねと思われた方、
ベルマンやアッペルマンの気持ちも分からなくはないという方、
ぜひこちらから🔖や⭐️をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
ミーミルたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
【予 告】
次回、「配置換え」お楽しみに。
布陣の変更を始めたヴァナヘイム軍は、猛獣の口元にわき腹をさらけ出した草食動物も同じである。危険極まりない状況であることを副司令官ローズルがあらためて指摘した。
「そのときは、全軍白旗を揚げて、許しを請うしかないだろうな」
ミーミルは図面から顔を上げずに、さして面白くもない冗談を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます